浜名孝行監督×黒木類プロデューサーインタビュー
劇場アニメ『らくだい魔女』が全年代のファンに愛される理由 制作の裏側を監督&Pに聞く
人気児童書『らくだい魔女』シリーズ第2巻を中心に映画化した劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』が公開中だ。主人公・フウカと仲間たちの冒険は子どもたちにとってワクワクするものであることは間違いなく、さらには大人にとっても心に刺さるエピソードやセリフが本作には込められている。
監督を務めたのは、『テニスの王子様』をはじめ、劇場版『魔法少女リリカルなのは』シリーズや『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』などの浜名孝行。そしてアニメーション制作を担当したのは、『ハイキュー』『黒子のバスケ』のようなスポーツアニメから、『攻殻機動隊』シリーズ、『PSYCHO-PASS サイコパス』など多くの人気アニメを制作してきたProdcution I.G。
本作でも精緻な作画と豊かな心情描写に光るものがあったが、子どもから大人まで楽しめる本作はどのようにして制作されたのだろうか。浜名監督とアニメーションプロデューサーの黒木類に、作品に込めた想いを聞いた。
『らくだい魔女』らしさを追求した演出
ーーまず、『らくだい魔女』のアニメ化企画の始まりについて教えてください。
黒木:ポニーキャニオンさんからオファーをいただきました。実は10年前ぐらいに小学生の姪っ子に『らくだい魔女』を教えてもらったことがあって、スタジオとして児童文学ものもやりたいなと考えていたので、ご縁があった感じです。
ーー『らくだい魔女』を姪っ子さんに薦められたのですね。読んでみて面白かったからということですか?
黒木:そこまでハードではない『ハリー・ポッター』みたいな印象でした(笑)。当時読んでみて、フウカたち3人のドタバタの感じや、文章に暖かみがあって、いい原作だなと思っていました。
ーー数あるシリーズの中で第2巻にあたる『らくだい魔女と闇の魔女』が選ばれたのはどうしてだったのですか?
浜名孝行(以下、浜名):アクションがあり、キャラクターの背景も分かりやすかったからですね。第1巻だけだとアクションも少なく、映像としては少し地味になってしまうので。原作側の皆さんとも話し合って決定しました。
ーー原作の対象年齢は小学校中学年以上とあります。ただ、本作はそれより上の年代の人が観ても刺さるところがありますし、子どもたちと一緒に映画を観に行った親も心から楽しめる作品だと思います。こうした対象視聴者はどのように考えて制作されましたか?
浜名:『らくだい魔女』シリーズは長く続いている作品なので、昔からずっと好きだというファンの方も多くいらっしゃいます。そういう方にも楽しんで頂きたかったので、子どもはもちろん、大人も一緒に楽しめる作品にしようという方向性で出発しました。なので、子どもから大人まで楽しめる絵作りや映像表現と、子どもだけの主観の話じゃなくて大人目線の話も入れることを、シナリオ打ち合わせで話しました。
黒木:本作を観るのはその当時小学生だった人たちでもあるんですよね。そういうところも踏まえた上で浜名監督をオファーさせていただきました。ただ、あまり対象年齢が上がり過ぎないように、とは考えていましたね。
浜名:年齢が上がり過ぎると原作とはまるっきり変わってしまうので、基本的にはこの原作の楽しくて面白いところが1番になるように心がけました。なので、“大人向けに”というよりは、“昔好きだった人が十分楽しめるように”という意識でした。
ーーシナリオ自体は原作をほぼストレートに踏襲しています。演出面ではどのように比重を置いたのでしょうか。
浜名:原作は結構要素が盛りだくさんなので、映像としてどうバランスをとるかが重要なポイントでした。キャラクターの見せ場やアクションも大事にしつつ、だんだんと盛り上がっていくような展開を心がけました。そして遊びのところはしっかりと遊び、シリアスなところはしっかりとシリアスな空気感を出すなど、『らくだい魔女』らしさをきちんと出せるように意識しました。事前に原作に携わってきた方たちの話をお聞きする機会があったので、そういう方々の気持ちを大事にしながらアニメの制作を進めました。
ーー子どもから大人まで楽しめるようにするとなると、『らくだい魔女』らしさの追求が鍵になるように思います。その“らしさ”について、どのように考えていらっしゃいますか?
浜名:キャラクターそれぞれの魅力であったり、ドキドキワクワクする展開ですよね。それらを大切にしつつ、アクションや心情描写もしっかり作り込みたいと思っていました。そこが弱いと心に残らない作品になってしまうので。もしかしたら、出来上がったものが想像と違ったファンの方もいるかもしれないですが、原作にないところも『らくだい魔女』を壊さないように最大限作ったつもりです。あとは受け取る皆さんがそう感じてくれればいいなと思っています。
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ーー浜名監督をオファーしたのは黒木プロデューサーですが、完成した作品についてどう感じていますか?
黒木:めちゃくちゃよかったです。というのも、今回のオーダー自体は結構難しいんです。2巻の内容も盛りだくさんですし、上映時間は子どもも見れるようにということで60分枠に収める形でご相談いただいていたので。大人が観れば「もっと余韻が必要だろう」とか「こうしておくべきだろう」みたいなところはあるのですが、あえて気にせずというか、ぽんぽんと話が進む形で収めていますよね。でも観終わったときに、子どもが観るのであればこのくらいのスピード感がいいなって思えて、浜名さんだからこそやってくれたものだと感じています。アニメーションプロデューサー目線ではありますが、全体を通してまとめあげる監督の手腕がすごかったなと思いました。
浜名:ありがとうございます(笑)。
黒木:場面も多かったですし、各キャラクターをしっかり拾っていこうとすると「(時間を)伸ばさざるを得ない」と思いたくなるところが結構ありますが、うまくまとめてくださったと思います。