劇場アニメ『らくだい魔女』が全年代のファンに愛される理由 制作の裏側を監督&Pに聞く

『らくだい魔女』監督&Pインタビュー

「子ども向け作品だからといって、“チープな演出”にはしたくなかった」

ーーアニメ制作において「Production I.Gらしさ」というものがあると思います。『ハイキュー』『黒子のバスケ』のようなスポーツアニメから『攻殻機動隊』シリーズや『ジョーカー・ゲーム』まで代表作が様々ありますが、『らくだい魔女』はどういう位置づけの作品なのでしょうか?

黒木:いただいてる作品はすべて全力で取り組んでいることは前提なのですが、うちの会社が制作する作品ってハードなものが多いので、こういう可愛い作品に携わってスタッフの気持ちに良い影響があれば、と思っていました。どの作品でも制作工程がそんなに増えたり減ったりするわけではないのですが、クリエイターの気持ちは大きく違ってくるんですよね。そういう意味においては、こういった可愛いタイトルがあることで、気持ち的にゆったりできるような部分があったと思います。『らくだい魔女』の制作中は誰1人難しい顔をしていないんです(笑)。みんな本当に楽しんで作っていたと思います。

ーー監督的にはそういった感覚はありましたか?

浜名:僕にとっても昔から知っているスタッフも多かったので、楽しくやらせていただきました。緊張してうまくいかないとかそういうことはなく、安心して作れました。もちろん真剣に作っているので常に和気あいあいというわけではありませんが、この作品のためにみんなで力を合わせて作れた感じはしています。

ーー演出面でいうと、物語の後半でフウカたちが螺旋の中で追いかけられるシーンや、ラストシーンのフウカが光に包まれてシームレスに場面が変わる部分がさすがの演出だと感じました。

浜名:子ども向け作品だからといって、“チープな演出”にはしたくなかったんです。作画的にはこちらから指摘するようなことはないほどバッチリなスタジオなので、逆にもっと盛ってもらうようなオーダーをたくさんした気がします。きっちり仕上げていただいたものに、さらに何かをプラスしてもらって、より良くしていただきました。

ーー具体的にはどういったシーンでしょうか?

浜名:フウカたちが螺旋の中で追いかけられるシーンは3Dで作ったんですよ。このシーンはデジタルの美術でやるよりも迫力が出たんじゃないかなと思います。黒木さんに「3Dにしたいんです」って無理を頼んだとき、最初は「えっ」っていう反応でしたが(笑)。

黒木:そうでしたね(笑)。でも3Dにして、結果的にはよかったです。

ーーまた、今回は声優3人の方にもインタビューを行いましたが、演技も、本人たちの雰囲気もそれぞれのキャラにとてもマッチしているように感じました。キャスティングはどのように行われたのですか?

黒木:テープオーディションで幅広くお声がけさせていただいて、みんなでキャラに合っている人を話し合って決めました。ひとつだけ、チトセを男性か女性のどちらで演じるかを迷ったくらいですね。

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ーー3名全員とも、アフレコ時にディレクションが入ることはほぼなかったとおっしゃっていました。実際に演技も素晴らしいものでしたが、このあたりは何か意図があったのでしょうか?

浜名:それは役者さんがそれぞれのキャラクターをしっかりと捉えてやった結果だと思いますね。あと、音響監督の小泉さんとも長く仕事をしているので、お互いの意識にズレもなかったように思います。また、他の周りのキャラクターを全部収録した後にフウカたち3人の声を録ったので、世界が固まった上での主役たちのアフレコができて作品の雰囲気を捉えやすかったかもしれないですね。

親の立場を経験したからこそ実現できたアニメ化

ーー最後に、本作の物語を個人的にどう捉えているか、そしてどういう人に観てほしいと考えているかを教えてください。

浜名:作ってみて思うのですが、本作は今だけ楽しめる作品というよりは、今の子どもたちも大人も、例えば10年後に生まれてくる子どもたちにも観てもらえるような、長く愛される作品になっていてほしいと思います。少なくとも“この時代だから”っていうような作品ではないと思っています。やっぱり仲間を思うフウカの気持ちだったり、フウカが成長していく様は普遍的であり、どんな時代でも観てくれる人がいて、そこに何か感じてもらえるものがあるのかなと。いまはそんな心境にあります。

ーー黒木さんはどうですか?

黒木:僕は、個人的には最後の親が登場するシーンについて、浜名さんがああいうふうに(親についての描写を)持ってきたのがすごくずるいなと思っています。あれは、子どものいる親は絶対にグッときてしまうと思います。なので、とりあえず観てほしいとしか言えないですし、まずは自分の姪っ子と娘に観てほしいです(笑)。「どうだった?」って感想を聞きたい。

ーー浜名監督は親のエピソードについてどのように考えていたのでしょうか?

浜名:僕も娘がいる親の立場なので、親としての気持ち、そして娘自身の気持ちを考えながら作りました。あるときは自分が子どもだった頃を思い出したり。そう思うと、この作品は今だからこそこういう形で作れたのかなと思います。例えばこれが10年、20年前に作っていたら、全然違う形になっていると思います。今と昔では、子どもに向ける感情が変わっているので。それに子どもが生まれて面倒をみるためにバタバタしている時期の感情、それから子どもが成長して親のもとを離れて少し俯瞰で眺めているときの感情、それぞれ全然違いますよね。そういう意味では、両方の気持ちが作品に出たのだと思っています。

■公開情報
劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』
全国公開中
キャスト:井上ほの花、田村睦心、石見舞菜香、小野賢章、佐倉綾音、日笠陽子、田中理恵、福山潤魚建、小西克幸、花守ゆみり、遠藤綾、白砂沙帆、岡本信彦
原作:作・成田サトコ/絵・千野えなが『らくだい魔女』シリーズ(ポプラ社刊)
監督:浜名孝行
脚本:吉村清子
キャラクター原案:千野えなが
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:杉田まるみ
美術デザイン:伊井蔵
プロップデザイン:高橋靖子
色彩設計:大塚眞純
美術監督:青井 孝、岡本好司
3D:髙賀茂寛人
撮影監督:柚木脇達己
編集:植松淳一
音響監督:小泉紀介
音楽:成田旬、山崎泰之
配給:ポニーキャニオン
アニメーション制作:Production I.G
製作:アニメ「らくだい魔女」製作委員会
©成田サトコ・千野えなが・ポプラ社/アニメ「らくだい魔女」製作委員会
公式サイト:https://anime-rakumajo.com/
公式Twitter:https://twitter.com/anime_rakumajo

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