溝端淳平、『どうする家康』で記憶に残る名演 王子から暴君へ、氏真の闇堕ちっぷり体現

溝端淳平が『どうする家康』に刻んだ名演

 そして、氏真と家康がついに対峙した問題の第12回「氏真」。今川勢と徳川勢が激突するその最前線に氏真も立ち、さらに堕ち、狂い、憔悴していく過程を、溝端はたった1話だけの中で展開させてみせた。劇中で“もっとも変化した男”である。感情を爆発させるシーンが続くが、それは力演ではあるものの、『どうする家康』という作品世界の枠組みからはみ出すような熱演ではない。本作における氏真の役どころは、あくまでも家康の成長を促す存在なのだ。溝端の変化していく演技の流れは、まるで演劇を観ているような感覚にさせられるものだった。彼の姿を見ていると、お茶の間にいながらこちらまで非常に疲れてしまうのだ。氏真と家康が言葉を交わし合う物語の展開にも涙したが、何よりも溝端のこの演技に泣かされたのである。

 溝端より一つだけ年下の筆者は、リアルタイムで彼の活躍を追ってきた。デビュー作『生徒諸君!』(2007年/テレビ朝日系)での瑞々しい姿から早くも16年。このところはバイプレイヤーとしての活躍ぶりも目立っている。氏真と同様に、楽な道のりではなかっただろう。時代が変われば俳優に求められるものも変わってくるし、新しい世代の者たちが次から次へと登場してくる。30代に入ってから頭角を現す人間もいる。『どうする家康』に溝端淳平が刻んだ名演は、これからの彼の頼もしい俳優活動を予感させるものだ。演劇界では重宝されている若き才能の一人だが、そろそろ映画界でもその力をふるってほしい。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

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