『THE SWARM/ザ・スウォーム』ドキュメンタリーのような臨場感 リアルと重なる海洋異変
『THE SWARM/ザ・スウォーム』の真の主役は海といえるかもしれない。壮大なスケールで描かれる海の描写、その美しさに圧倒されるが、その海に異変が起こる。カナダのバンクーバーでは死んだシャチが海辺に打ち上げられ、やがてシャチやクジラが人間に対して攻撃的な態度を見せるようになる。続いて、普段は海底に蓄積しているメタンハイドレート(メタンガスの結晶体)が、海面に大量に浮いているのが発見され、その原因が新種のアイスワーム(ミミズの一種)の大量発生だとわかる。アイスワームはメタンハイドレートに穴を開け、その結果、恐ろしい災害が人類を襲う。そして、レストランで仕入れたロブスターから広がる未知の伝染病。『THE SWARM/ザ・スウォーム』の原作小説が発表されたのは2004年だが、本作で描かれた異変に近い出来事が近年、現実に起こっている。それが本作が注目を集めている理由のひとつだ。
例えば今年1月、大阪の淀川にクジラが迷いこんだことが話題になったが、その後、鳥取県の海岸には深海魚のダイオウイカが打ち上げられ、瀬戸内海には3.5メートルものホオジロザメが現れた。原因のひとつとして考えられているのが、地球温暖化の影響で海水の温度が上昇していること。地球温暖化に関しては、最近新しい脅威が報告されている。最新の研究によると、温暖化の影響で海水が酸性化。海に生息するプランクトンなど小さな生き物が溶けてしまうことで生態系が崩れて、海の生き物の5分の1が死滅するという予測が出ている。そのうち、酸性化した海でも生き延びる新種のアイスワームが登場するかもしれない。そして、魚から広がる伝染病で思い出すのは、毎年のように発生する鳥インフルエンザだ。今のところ人間に感染する可能性は非常に低いと言われてはいるものの、もし変異種が発生して人に感染するようになったら、と思うと恐ろしい。
つまり、『THE SWARM/ザ・スウォーム』で描かれる異変は、いつ現実に起こってもおかしくないようなこと。だからこそ、物語はドキュメンタリーのような臨場感たっぷりの語り口で展開していく。そして、そこで異変に立ち向かうのは様々な分野の科学者たちだ。スコットランド沖でメタンハイドレートを発見する海洋生物学研究所の所員シャーロット・“チャーリー”・ワグナー(レオニー・ベネシュ)、ノルウェーで新種のアイスワームの存在を知る海洋生物学者シグル・ヨハンソン(アレクサンダー・カリム)、カナダでクジラの異変に気付くクジラ学者レオン・アナワク(ジョシュア・オジック)、フランスで伝染病を食い止めようと奔走する分子生物学者セシル・ローシュ(セシル・ドゥ・フランス)。世界各地で異変に気付いた科学者たちが、それぞれに調査を進める姿が並行して描かれていく。やがて、そこに天体物理学者のサマンサ・クロウ(シャロン・ダンカン=ブルースター)が加わって、彼らはひとつのチームを結成。驚くべき仮説にたどり着く。
科学者たちを結びつけるのは持ち前の探究心であり、未曾有の危機から人類を救いたいというひたむきな想いだ。しかし、物語が進むなかで彼らは次々と困難に直面する。研究資金を出している企業への忖度。常軌を逸した仮説を発表することで、学会を追われてしまうかもしれない不安。さらに、ある者は親友を、ある者は愛する人を失うが、悲しみを乗り越えて彼らは謎に迫る。そうした群像劇としての面白さも本作の魅力だ。
科学者たちは肌の色は違うし、セクシュアリティも様々だ。そんな彼らがお互いを信じて知恵を出し合う。地球を救うのは特別なパワーを持ったヒーローではなく、なんとか問題を解決しようと私利私欲を捨てて団結する普通の人々なのだ。そして、異変の原因をつきとめた時、彼らは大きな選択を迫られる。自分たちが脅威を感じるものにどう向き合うのか。そこに今も戦争や差別がなくならない世界に対する、作り手側からのメッセージを感じた。『THE SWARM/ザ・スウォーム』はSFサスペンスというスタイルを取りながら、そこに現実社会の問題を重ね合わせることで見応えがある重厚なエンターテインメントに仕上がっている。
超大型深海SFサスペンス
Huluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』特集
『ゲーム・オブ・スローンズ』の主要プロデューサーの一人、フランク・ドルジャーが手がけた超大型深海SFサスペンスが誕生した。世界中…
■配信情報
Huluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』(全8話)
Huluにて独占配信中
製作総指揮:フランク・ドルジャー
監督:バーバラ・イーダー、ルーク・ワトソン
原作:『THE SWARM』フランク・シェッツィング著
脚本:スティーヴ・ラリー、マリッサ・レストラード
制作:インタグリオ・フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション
©︎Intaglio Films GmbH / ndF International Production GmbH / Julian Wagner / Leif Haenzo
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