古沢良太脚本の持ち味が全開 『映画ドラえもん』で“騙し騙される”を描いた意義

古沢良太脚本が全開の『映画ドラえもん』

 『空の理想郷』では、のび太とドラえもんのバディ感が強調されていた。2人はいつも対等で、何かと張り合っていて、お互いのピンチに駆けつける。パラダピアンライトを浴びてもダメなままだったのび太とドラえもんの丁々発止は、パーフェクトネコ型ロボットのソーニャ(King & Princeの永瀬廉が驚くほどの好演)が思わず笑ってしまうほど。パラダピアから脱出したときは、インスタント飛行機のバッテリーが切れたドラえもんのピンチをのび太が救ってみせた。

 古沢良太作品はバディムービーの面白さに満ちている。映画『探偵はBARにいる』の〈俺〉(大泉洋)と高田(松田龍平)、『リーガル・ハイ』の古美門と黛真知子(新垣結衣)、『ミックス。』の多満子(新垣結衣)と久(永山瑛太)、『コンフィデンスマンJP』のダー子(長澤まさみ)とボクちゃん(東出昌大)など、枚挙に暇がない。彼らはいつもお互いに悪態をつきあいながらも、いざとなれば一致協力して目的に向かって邁進する。

 ソーニャとの会話の中で、ドラえもんはネコ型ロボットを「人間の友だちになるために作られたんだ」と話していた。ネコ型ロボットは人間のお世話もするが、基本は友だちなのだ。先代の声優である大山のぶ代が、ドラえもんを「未来から来た子守り用ねこ型ロボット」と考えて丁寧な言葉づかいを心がけていたのとは対照的である。(※1)むろん、これは優劣をつけるものではない。

 古沢はドラえもんを演じる水田わさびに、「水田さんの、ちょっとおっちょこちょいで、みんなとバタバタしているドラえもんのお芝居だから今回の本が書けたんです」と声をかけて、それを聞いた水田は泣いてしまったという。(※2)『空の理想郷』のドラえもんとのび太は、これまでの古沢作品のバディたちに負けず劣らずの名コンビぶりを見せている。完璧な子どもやロボットではなく、ダメな小学生とダメなネコ型ロボットのコンビと友情が世界を救うのだ。

 『空の理想郷』は『映画ドラえもん』の歴史に連なる一作であるとともに、まごうことなき古沢良太作品である。そこから発せられるエンターテイメント性とメッセージは、間違いなく子どもたち(と一緒に観に来ている大人たち)に届くことだろう。

参照

※1. https://seigura.com/news/30838/3/
※2. https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2023-03/doraeiga2023.html

■公開情報
『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』
公開中
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、井上麻里奈、水瀬いのり、永瀬廉(King & Prince)、山里亮太(南海キャンディーズ)、藤本美貴
原作:藤子・F・不二雄
監督:堂山卓見
脚本:古沢良太
主題歌:NiziU「Paradise」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023
配給:東宝
公式サイト:https://doraeiga.com/2023/

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