『夕暮れに、手をつなぐ』遠ざかる空豆と音 広瀬すず、永瀬廉、田辺桃子の芝居が光る

 例えば、劇中に「好き」というセリフがあったとして、その一言に言葉本来の意味を超えたニュアンスを付けていくのが脚本や演出、そして俳優の芝居である。『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)は、そのことをつくづくと痛感するドラマだ。空豆(広瀬すず)と音(永瀬廉)は確かに互いを思い合っているのに、ゆっくりと遠ざかってしまっている。

 この第8話で、空豆は母親の塔子(松雪泰子)に、デザイナーの久遠(遠藤憲一)の上辺だけの言葉、行動、裏切りに傷つき、救いを求めた先の音にまでどん底に叩き落とされてしまう。

 塔子は「きっと泣く」のMVにクレジットされていた空豆の名前を見て、音を介してコンタクトを取ってきた。「あなたのデザイン、とても素敵でした。これからも、頑張ってください」という文面は額面通り受け取ればトップデザイナーが賞賛する自慢のコメントだが、自分を捨てた母親がそう思っているとは空豆には到底思えなかったはずだ。「何を今さら」という感情の方が強かったかもしれない。空豆の脳内に塔子からのメッセージがリフレインする。

 空豆がコレクションテーマとして新たに思い浮かんだ「Don’t remember days, remember moments」は、直訳すると「日々を思い出さないで、瞬間を思い出して」。音と缶ジュースの空き缶を投げっこしていた、そんな日常の瞬間を服のデザインとしたアイデア。そこには音との何気ない思い出が詰まっている。あろうことか、そのデザインを久遠は空豆に黙って奪い取ってしまった。天才と凡人、始まりと終わり。自身を卑下し、空豆と自分を対照的に見る久遠は次のパリコレのアイデアが思い浮かばずスランプに陥ってしまっていた。そんな時に見つけた空豆のデザイン帳。アシスタントが考えてチーフデザイナーが形にするのはよくあることだと柾(小久保寿人)は言うが、空豆の怒りをさらに煽る形となったのは久遠の土下座だった。天下の久遠が新人相手に簡単に土下座をしてしまう、それは空豆にとっては失望にも似た思いだっただろう。

 アンダーソニアを飛び出した空豆が真っ先に電話をしたのは音。雪平邸を出て、セイラ(田辺桃子)とメジャーデビューしたとしても、音は「変わんないから。離れても、俺たち、何にも変わらない。俺も。俺たちの関係も」と約束してくれた――。しかし、空豆がユバースレコードのスタジオで目撃してしまったのは、音とセイラが抱き合っている場面だった。

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