『大奥』が埋める『鎌倉殿の13人』ロス 堀田真由、山本耕史、三浦透子らの安心感
多くを語らずとも仕草や佇まいだけで有能な人物であることを見るものに納得させる山本の力がストーリー展開の早さと見事に合致した。だが、その中でも、父・桂昌院(竜雷太)に押し付けられた、世継ぎを産むという女将軍の使命に心を蝕まれていく綱吉の傷に触れた時などに見せる繊細な演技がキラリと光る。結局、綱吉と結ばれたのは自身が急死する直前のみであったが、最後に綱吉を抱き寄せ「なんという幸せか」と流す涙があまりに美しくこちらまで救われたような気持ちになった。
他に、『鎌倉殿』で北条宗時を演じた片岡愛之助も出演している。宗時は弟である義時に無茶振りする困った一面もありながら、いつも朗らかな愛すべき兄だったが、本作で演じる大奥総取締・藤波は8代将軍・吉宗(冨永愛)と対立する役どころ。とはいえ、春日局や桂昌院のように各時代におけるヒール役と比べれば、藤波は少々小物感があり、片岡にとっては正直役不足なのではないかと当初は思っていた。しかし、それは間違いだったと今なら思う。
藤波が宿下がりを自ら申し出て、大奥を去るというドラマオリジナルの展開が描かれた第8話。森下がここで強調したのが、藤波の大奥総取締としての矜持だ。藤波は吉宗に自分たちは将軍の種馬に過ぎないが、その事実を隠してあたかも情の通ったものに彩ってきたのが大奥だと説く。その上で「もう少しばかり奥の男たちにも情をおかけくださいますこと、切にお願い申し上げます」と頭を下げた時の心を尽くした物言い、そして美しい所作に藤波の生き様が映し出されていた。なるほど、片岡だからこそ担える役目であったとここで感じた。
そして、3月7日放送の第9話から登場するのが、三浦透子演じる吉宗の長女でのちに9代将軍に就任する家重だ。家重は言語・排尿障害を持っており、公の場でもたびたび粗相をしてしまう。難しい役柄なだけに誰が演じるのか最も注目されていたが、キャスティング発表以降、SNSでは心配の声よりも三浦が演じる家重に期待する声が多く挙がっている。『鎌倉殿』では源義経(菅田将暉)の嫉妬深くプライドの高い正妻・里役で注目を集めた三浦。その確かな演技が鎌倉殿ロスをより一層埋めてくれることであろう。
■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社