『100万回 言えばよかった』悠依を守った直木のかすかな音 英介が隠し続けてきた裏の顔
英介が「直木にもそう言ったんだよ!」と急に興奮して声を荒げた姿を見ると、普段抑えられている部分が一気に爆発してしまう気質があるようだ。直木が殺されたのも、おそらく英介の裏の顔を知ってしまったからだと思われる。本作は初回から幽霊が出ているにもかかわらず、生きた英介のグミを咀嚼する姿に一番ホラーを感じて震えた。「楽しい時間」と言いくるめられて「仕事」をさせられていた少女たち。そんな生活を送ったために、金銭感覚を狂わせた涼香。彼女たちを救いたいと望みながらも、いざとなると逆らうことができずに命を奪われそうになった莉桜に、罪を重ねることでしか居場所を得られなかった希也。そしてきっと英介も……。
そんな世界に引きずり込み、逃れられなくした大人たちのなんと罪深いことか。「子どもたちに罪はない」と自分に言い聞かせるようにつぶやいていた英介も、この連鎖を断ち切りたいと思っていたのだろう。こんなことはしたくない、と思いながらも動かずにはいられない。どうしたって抗えない強烈な洗脳と罪の意識。その間に生きている彼を、唯一鎮めることができるのはグミの甘さだけなのだとしたら。それほど悲しい人生はない。だから、幽霊の直木が「ここにいる」という悠依の言葉にひるんだのかもしれない。スピーカー越しに聞こえた直木の口笛。そのかすかな音が、どんな腕力にも勝る武器になるなんて。「何もできない」と言っていた直木が、わずかな時間でも悠依を守ることができたのだと思うと目頭が熱くなる。どうか、このまま悠依が無事に救出されるように祈るばかりだ。
第8話では、幽霊たちの成仏についても新しいことがわかった。夏英(シム・ウンギョン)の夫・ウジンを交通事故で巻き込んで死んだ弥生(菊地凛子)。謝りたいと幽霊になってやって来たものの、謝罪の言葉を夏英に伝えたのに成仏することができなかった。そこで思い残しは、きっと夏英のウジンに伝えられなかった思いにあると考え、今回もウジンにそっくりだという譲(松山ケンイチ)が一肌脱ぐことに。
「夢だったと思うことにする」なんて強がっていた夏英だが、お酒に酔っていたこともあり譲にウジンを重ねて「愛してる」と素直な言葉を伝える。その様子を見た弥生が満足そうに消えていく。さらに翌日、成仏する直前と見られるタイミングで一瞬だけ生きた人と同じように姿を現し、会話をすることができた。
きっと直木もいつか成仏をする。その瞬間には、悠依と一瞬だけ目を合わせて会話ができるということなのだろうか。まだそばにいてほしい気持ちがあるものの「消えてもいいよ」と、悠依が少しずつ“その瞬間”に向けて心の準備をしているのがまた切ない。また幽霊界隈の噂では、相性の良い生きた人間の身体を乗っ取る形で“生き返り”をすることもできるという話もあった。もちろん、思い浮かぶのは直木と譲の相性の良さ。だが、悠依と直木は譲の人生を奪うようなことは望まないと思う。
それがあるべき道だと思っても、やはり人の死や別れは寂しいものだ。そして、刻々とこの物語の結末が近づいているというのも寂しくてならない。いつか終わる、とは覚悟しているけれど、もう少しだけこの楽しい時間を過ごしたい……。そう願ってしまうのは、私たちも悠依と一緒だ。
■放送情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:井上真央、佐藤健、シム・ウンギョン、板倉俊之(インパルス)、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜一花、香里奈、平岩紙、春風亭昇太、神野三鈴、菊地凛子、荒川良々、松山ケンイチ
脚本:安達奈緒子
プロデューサー:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」(TOY’S FACTORY)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/100ie_tbs/
公式Twitter:@hyakumankai_tbs
公式Instagram:hyakumankai_tbs