『ちひろさん』で恋しくなる、思い出のごはん 有村架純が纏う雰囲気に魅せられる

『ちひろさん』で恋しくなる“ごはん”

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、絶対にのり弁が食べたくて買いに行ったお弁当屋さんが臨時休業だった大和田が『ちひろさん』をプッシュします。

『ちひろさん』

 海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いているちひろさん(有村架純)。元風俗嬢であることを隠そうとせず、ひょうひょうと生きる彼女の元には、それぞれに孤独を抱えた人々が、吸い寄せられるかのように集まっていきます。ちひろさんは彼らとご飯を食べ、言葉をかけ、時に優しく、そして強く、背中を押していく。その出会いを通して、ちひろさんもまた、自らの孤独と向き合い、少しずつ変わっていく……。

 本作を観て、ちひろさんという人を追うドキュメンタリー的な作風のように感じました。冒頭で、公園で野良猫に絡んでいるちひろさん。その姿は、女子高生のオカジ(豊嶋花)のスマホで撮影している視点から映し出されます。ちひろさんが鉄棒で遊び、ホームレスのおじさんと共に過ごし、お弁当屋さんで店番し、部屋の中で沈んでいたり……映像を観ているというより、ちひろさんに流れる時間までをひっくるめて感じられる体験がありました。他のキャラクターにもスポットは当てられますが、おおよそがちひろさんを追いながら、彼女が出会う人々との関係性が映し出されていきます。

 そして、冒頭で記述した通り、本作を鑑賞しながら「お弁当おいしそ」と何度声が漏れたことか。それもそのはず、本作のフードスタイリストを務めているのは、『かもめ食堂』『南極料理人』『深夜食堂』などの名作を“食”の要素で彩ってきた飯島奈美さん。お弁当屋さんが舞台ということもあって、劇中には食のアイテムが散りばめられ、要になっています。食べ物が、誰かの心を動かすセリフや涙のように、物語をしっかり魅せて、動かしていく。お弁当の中身、そしておにぎりの大きさひとつとっても、そのキャラクターの個性や、食事を共にする関係性が表されていきます。

 むかし、お婆ちゃんがにぎってくれたでっかいおにぎり、友人が作ってくれたほかほかの炊き込みご飯……誰かの料理を思い出させれくれる、そんなひと時があります。のり弁も小学生のマコト(嶋田鉄太)のお母ちゃんがつくるやきそばも、観ていてきっといっしょに食べたくなるはずです。

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