「実際の事件をもとにした作品」はどこまで本当? 『呪詛』『グッド・ナース』から探る
英語圏ではノンフィクション作品のほうが人気?
一方、英語圏でトレンドとなっているのは、ノンフィクションや残酷描写の少ないものだ。2022年10月に配信が開始された『グッド・ナース』は、1980年代から1990年代にかけてアメリカで実際に起きた、看護師による患者の大量殺人事件がもとになっている。ジェシカ・チャステイン演じるシングルマザーのエイミー・ロークレンは、心臓疾患を抱えながら、生活のためにICUで夜勤のナースとして働いていた。そこに新たな同僚としてやってきたのが、エディ・レッドメイン演じるチャーリー・カレン。彼女は周囲に持病のことを隠していたが、ふとしたきっかけでチャーリーの知るところとなる。それ以降、彼は彼女をやさしく気遣い、2人は固い信頼で結ばれていった。そんななか、病院では入院患者の不審死が頻発。警察はチャーリーの関与を疑い、エイミーは病院の規則を破って捜査に協力することになる。
『グッド・ナース』は配信初週からグローバルで視聴時間第1位を記録し、世界93カ国でTOP10入り。日本でも第2位と大きな注目を集めた。本作はチャールズ・グレーバーによる同名ノンフィクション小説を原作としており、著者によって入念なリサーチが行われている。さらに映画の制作陣も実際のエイミーと会って取材を行い、事実関係を再度確認したという。
本作は連続殺人を題材とはしているが、全編を通してエイミーの視点から描かれ、残酷な殺人描写は全くない。実際にカレンが患者を殺害した方法が薬物の過剰投与だったこともあり、グロテスクなシーンを作る余地がなかったこともあるだろう。しかし原作に書かれているカレンの生い立ちなどを映像化すれば、それなりにショッキングな内容にもできたのではないだろうか。そうしなかったのは、本作の主眼がエイミーと彼の人間的なつながりに置かれているからだ。『グッド・ナース』はシリアルキラーの恐怖を描くホラー作品ではなく、サスペンスタッチのヒューマンドラマなのだ。一方でNetflixは、同じ事件を扱ったドキュメンタリー『キラーナース:その狂気を追跡する』も同年11月から配信し、その異常性を強調もしている。『グッド・ナース』のようなノンフィクション作品は、その補足となるようなドキュメンタリーを併せて配信することで、どちらの作品も視聴者の興味を惹く相乗効果が期待できる。
「実際の事件に基づく」という売り文句は、いつの時代も視聴者の興味を惹く。2022年に大ヒットとなったNetflixのドラマシリーズ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』の成功は、それを顕著に物語っている。『呪詛』もまた、過激な描写を含み、それが実話であると宣伝することで多くの視聴者を獲得したと言える。それが多分にフィクションを含む誇張されたものだったとしても、こういった売り方は今後も減らないだろう。我々は、「事実は小説よりも奇なり」をフィクションで体験する楽しみをやめられないのだ。
■配信情報
『グッド・ナース』
Netflixにて独占配信中
監督:トビアス・リンホルム
脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
原作:チャールズ・グレーバー
出演:ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン、ンナムディ・アサマア、キム・ディケンズ、マリク・ヨバ、アリックス・ウェスト・レフラー、ノア・エメリッヒ