“ありえなさ”が魅力? 『エミリー、パリへ行く』を歴代ガールズドラマと徹底比較
愛の都パリ。そこに住む人々はさぞ洗練され、華やかな生活を送っているに違いない。そんなイメージは世界各国に共通するもののようだ。2020年から配信がスタートしたNetflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』は、シカゴのPR会社に勤務していたエミリー・クーパー(リリー・コリンズ)が、マーケティング担当としてパリの子会社に赴任するところから物語がはじまる。彼女はアメリカとフランスの文化の違いに面食らいながらも、持ち前の明るさと能力、そして友人に恵まれ、パリでの生活を満喫するように。もちろん現地で出会った男性たちとの恋模様も描かれる。2022年12月からはシーズン3も配信され、すでにシーズン4製作も決定済みの人気シリーズだ。
これまで多くのガールズドラマは多少の非現実性はありながらも、リアリティ、「あるある」を盛り込んで人気を博してきた。一方で『エミリー、パリへ行く』は主人公のパリでの華やかな生活と、複数の魅力的な男性から恋の矢印を向けられる夢のような展開で人気を獲得している。後者はともかく、前者はステレオタイプにまみれた“ありえない”ものだとの指摘も多い。
ここでは『エミリー、パリへ行く』の魅力を、歴代のヒットガールズドラマの比較を通して探っていきたい。
エミリーのワードローブ代は年間1700万円!?
『エミリー、パリへ行く』は世界中で大ヒットを記録したHBOの伝説的ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998年~2004年、以下『SATC』)を手掛けたダーレン・スターが製作総指揮を務め、同作で「ファッションもキャラクターの1人」と言わしめたカリスマスタイリスト、パトリシア・フィールドが衣装を担当する新シリーズとして、鳴り物入りでスタートした。本作の見どころの1つは、主人公をはじめとするキャラクターたちのファッションであることは間違いない。作中でエミリーは、数々のハイブランドの洋服を着こなしている。そのカラフルで奇抜なスタイリングについて、シーズン3からフィールドに代わってメインの衣装担当となったマリリン・フィトゥーシは「退屈なものより悪趣味なくらいがいい」と語る。パリらしいシックな装いよりも、自分らしさを貫くエミリーのファッションは、シーズンを重ねるほどにパワーアップ。それはスタイリングの面だけでなく、金額からも見て取れる。
カジノの比較サイトを運営する『New Casinos』の金融専門家が計算したところによると、エミリーのワードローブ代は年間7万6795ドル(約1700万円)と推定された。しかし彼女は洋服を買うために節約をしている様子はない。エミリーの推定年収は4万6980ドル(約660万円)だが、そのほか家賃や光熱費、友人たちとの食事やバカンスでの支出をあわせて、この生活を維持するためには年間7万3023ドル(約1020万円)の借金をしていることになる。エミリーのような華やかな生活は、非現実的だと知っておくほうがいいだろう。
『SATC』も、主人公キャリー・ブラッドショー(サラ・ジェシカ・パーカー)をはじめとするキャラクターたちのファッションが話題になった作品だ。しかし実はニューヨークでのキャリーの生活は、パリのエミリーよりもはるかに現実的だった。シーズン4の第16話では、ホームレスの危機に陥ったキャリーのお財布事情がかなり詳しく描かれている。彼女は、『VOGUE』に月1で連載している500ワードのコラム1本で2000ドル(約26.3万円)という破格のギャラを稼ぎ出す売れっ子ライターだ。その代わり、住んでいるのはボロアパートで家賃は月750ドル(約9.8万円)。そして彼女は収入のほとんどを毎月使い切っており、銀行口座にあるキャリーの35歳当時の資産額は1600ドル(約21万円)だ。一方で1足400ドル前後の靴を100足所有し、その総額は4万ドル(約530万円)。現在のレートで円換算しているため、放送当時とは感覚的に少し違うかもしれないが、案外リアリティのある範囲だろう。今後エミリーのお財布事情が明かされることになったとしても、キャリー以上の高給取りとなると、それもまた非現実的だ。