『どうする家康』松嶋菜々子、“戦国の母”於大の方としての強さ 元康のあまりに重い決断

松嶋菜々子、“戦国の母”としての強さ 

 『どうする家康』(NHK総合)第3回「三河平定戦」。三河・岡崎城で松平元康(松本潤)は今川氏真(溝端淳平)と書状のやりとりをしていた。石川数正(松重豊)は今川軍の援軍なしに三河を平定することを冷ややかに指摘するが、岡崎に帰ってきた家臣団は、九死に一生を得た鳥居忠吉(イッセー尾形)がためこんでいた槍や鎧を手にすると、戦ができると血気盛んだ。織田信長(岡田准一)は桶狭間の戦いの勝利に勢いづき、三河への侵攻を強めている。元康の目下の敵は、かつて松平家を裏切り織田方に転じた水野信元(寺島進)だ。

 信元は元康の母・於大の方(松嶋菜々子)の兄だ。元康はこの伯父を嫌っている。だが、寺島進の演技からは元康が苦手とするようなずる賢さだけでなく、愛嬌も感じられる。

 戦いを博打に例え、楽しんでいる様子の信元は「どちらに張るか、これを間違える奴は生き残れん。あのバカのごとくな」と語る。横にいた久松長家(リリー・フランキー)が「バカ?」と聞き直すと「俺の甥っ子だ」と言った。寺島の物言いは、本気で元康をバカにしているというよりは、戦という名の博打に慣れていない甥が慌てふためくさまを楽しんでいるようだ。

 本多忠勝(山田裕貴)を先駆けに松平軍が刈谷城に攻め込んだときには「つくづく博打の才能のないやつだ」と呆れ果てていた。「背中に気をつけろよ、甥っ子」という激励には可笑しみがある。そもそも信元は元康をはなから敵として見ていないのだろう。そんな信元も、破天荒な信長の振る舞いの前では萎縮してしまうのだが。

 負け戦が続く元康の窮地を見透かしたように、信元はわずかな手勢を連れて城にやってくる。「賽の目は運次第、皆そう思っておる。だが俺は違う。俺は分かるんだ」という信元は、目の前の物事すらも博打と言わんばかりに、数正や酒井忠次(大森南朋)の様子、元康の佇まいをじっと観察しては先を読む。数正も忠次も狡猾な信元を警戒しており、元康が白湯を飲んだのを合図に斬り込む、というのも彼らの案と見えるが、簡単に勘付かれてしまった。

 物腰柔らかに元康を脅す信元の声色と、鋭い目つきで一筋縄ではいかない人物だと分かる。けれど、甥を気にかけているのは案外本当という可能性がある。印象的なのが、妹・於大の方と甥・元康に触れる手元だ。信元は巻き舌口調で「お前が俺を嫌ってるのは知っている。だが、俺はバカな甥っ子がかわいい。死なせたくねえ」と語り、元康の肩にポンと手をやる。ガラの悪い歩き方で元康に近づくので威圧感があるが、その手元は意外に優しい。自分よりぐんと年下の甥っ子をビビらせて楽しむのが好きなのだと感じる。

 信元が於大の方を呼んだのは、元康を織田につかせるための切り札だった。とはいえ、信元が於大の方と元康だけで話す機会を設けた際、妹の肩をポンポンと優しく叩く姿には、数年ぶりに子と再会した妹の心を慮る様子も見受けられる。極めつきは、泣く泣く信長との同盟を決断し、今川家に忠実な吉良義昭(矢島健一)の東条城を攻め落としたときだ。「ようやく、正しい方に張ったなあ」と嬉しそうな笑みを浮かべ、燃え盛る城を前に涙を流す元康の頭を、小さな子どもに対してするようにガシガシとなでた。乱世を生き抜くために元康の父を裏切った信元にとって、裏切りは決して悪ではなく、「バカでかわいい甥っ子」がその道を選んだことが嬉しかったのかもしれない。

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