桑原亮子による貴司の短歌は『舞いあがれ!』の“北極星”に めぐみと舞、異なる“強さの型”

貴司の短歌は『舞いあがれ!』の“北極星”に

<陽だまりの 方へ寝返り打つように 昆布は水にひらいていった>

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』のメインライター桑原亮子は歌人でもあり、劇中に登場する貴司(赤楚衛二)短歌は彼女の作品であるという。これまでも、すてきな短歌(詩もあった)がいくつも出てきた。

<トビウオが飛ぶとき 他の魚は知る 水の外にも 世界があると>
<君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた>
等々……。

 第16週「母と私の挑戦」、第76話では貴司の短歌が新聞の「今月の新鋭歌人」に選ばれた。

 新聞には全部で6作、掲載されている。個人的に気に入ったのは、<暗闇のどこで鳴いている三毛猫よ 白い部分手がかりに捜す>というもの。三毛猫の黒茶白の3色を人生に見立てるとは。黒猫でもなく白猫でもない、混ざったグレーでもない。3色――多色が境界を作りながら調和しているという発見もできて、すてきな短歌だな〜!と感じる。

 この6本の短歌には傾向がある。どれも光を探している。昆布の歌は陽だまり、対岸の灯火、朝、落ち込んで立ち直る、麻酔から醒める、と『舞いあがれ!』の世界がここに凝縮されている。本筋のほかに貴司の短歌で物語世界が担保されているところがいい。おそらく、この短歌が、作家の北極星(何があってもブレない指針)なのだろう。ものをつくるうえでいろんな制約があっても、これさえあればというものを持っていることは強い。

 『舞いあがれ!』の本編では、父・浩太(高橋克典)が北極星になった。ここのところ、リーマンショック、浩太の死、IWAKURAの危機、舞がパイロットを諦める、舞が柏木(目黒蓮)と別れる……と哀しいことが続いていたが、第16週ではようやく光が見えてきて、めぐみ(永作博美)が奮起し、舞も協力し、悠人(横山裕)も投資をして、IWAKURAが復活していく。

 「会いたいなあ」とここにお父ちゃんがいてくれたらみんなで喜べると思うめぐみだが、浩太が生きていたら、めぐみはこんなにも生き生きと強くなかっただろう。

 浩太の生前、めぐみはずっと裏方で、浩太の話を傍で聞いているだけだった。大学も中退し、駆け落ち同然で、実家と縁を切るようにして、浩太についてきたほどの情熱家であるにもかかわらず、忍耐しているばかりでどこか窮屈そうに見えたが、社長を引き継いだあとのめぐみは輝いている。取引先の社長に一歩も引かず、啖呵切っためぐみの姿は痛快だった。昭和の「女ののど自慢」的なものを担うのはめぐみで、若い世代の感覚を担うのは舞である。

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