『思い出のマーニー』に込められた“愛”を探る 杏奈にとって“許す”ことの意義とは
「だから、ねえ。杏奈、お願い。許してくれるって言って……!」
『思い出のマーニー』といえば、このセリフを思い出す。まだマーニーの正体を知らない主人公の杏奈が、マーニーを許す有名なシーンだ。
本作を初めて観た時、筆でそのまま描いたような雲と凪いだ水辺の美しさに釘付けになった。儚げでミステリアスなマーニーと、心を閉じた杏奈の温かくも切ないひと夏に、心の柔らかい部分をぎゅっと掴まれた感覚を思い出す。
『思い出のマーニー』は、確かに美しい。それは物語を決めつけることのない曖昧な余韻があるからこそであって、宝箱をわざわざひっくり返すような真似は野暮だとも思う。
それでも、この「許してくれるって言って……!」という台詞に、どうしても小さな引っ掛かりを覚えてしまった。もしかすると、同じように感じた方もいるかもしれない。
なぜ“許して”ではなく、“許してくれるって言って”なのだろうかーー。そこには『思い出のマーニー』の求める、“許し”による“愛”が隠されている。本作は、しばしば友情や女性同士の恋愛にカテゴライズされることもあるが、その全てに共通する大切な人に向けた無償の愛を、マーニーは“許し”に投影している。
幼い頃に両親を亡くした杏奈は、養父母とともに暮らしている。悪化する喘息の療養のため、養母・頼子の親戚・大岩夫妻が暮らす海辺の村へ旅立つことになるが、そこで出会った金髪の美しい少女、“マーニー”との交流が、杏奈の心をゆっくりと溶かしていく、というのが作品の全体像だ。
本編の後半で杏奈とマーニーは、マーニーが怖がっているサイロへと向かうが、マーニーは杏奈を置いて突然に姿を消してしまう。
その後に2人が再会した際に、マーニーが冒頭のセリフを杏奈に投げかける。ナチュラルな文脈としては、マーニーはサイロに置いていったことを杏奈に謝っていると読める。しかし、マーニーがここで“許してほしい”のは、それだけではない。両親を含めて、杏奈を残して先立ってしまったことへの許しとも捉えられるだろう。
杏奈が心を閉じてしまったのは、彼女がずっと深い孤独に苛まれていたからだ。自分を一人置いていった家族に対しての、憎しみもあったかもしれない。それでも、本当は心のどこかで「どうしようもない」別れであったことも理解していたように思う。
人は誰でも過ちを犯す。それだけでなく、本人の意志に反して、大切な人を悲しませてしまうこともある。そんな「どうしようもない」世の中の不条理を受け入れて生きることも、杏奈が自分の生き方を見つけていくための大切な過程だ。
許しとは、そんな相手を受け入れて痛みと向き合っていくことを指すのだろう。許し、向き合い、人は未来へ歩み出す。マーニーにとって、許すことは「愛する」ことだった。だからこそ、杏奈にも“許してくれると言ってほしかった”のだ。大切な杏奈が人を愛せることを、自分の前で誓ってほしいと思ったのではないだろうか。