宮崎駿、『君たちはどう生きるか』は最後の長編監督作品に? 今後のジブリの行方を占う

正式復帰の宮崎駿を率いる今後のジブリの行方

 宮崎駿監督による10年ぶりの長編作品『君たちはどう生きるか』が2023年7月14日に公開されることが発表され、世間を賑わせている。

 2013年9月6日、『風立ちぬ』の公開から間もなく開かれた引退会見で「どうせまただろうと思われているんだろうけど、今回は本気です」(※1)と話していた宮崎監督だが、今作の正式発表でネット上には「引退詐欺」がトレンドに。だがその声をじっくり見ていくと、もちろん嬉しみの声が大きいのだ。

 宮崎駿が監督を務めた近年の長編作品は、2008年公開の『崖の上のポニョ』、2013年公開の『風立ちぬ』、そして2023年公開の次回作『君たちはどう生きるか』に繋がっていく。アニメ・映画から漫画まで幅広く詳しいドラマ評論家の成馬零一氏は、宮崎駿監督にとっての今作の位置付けについて、次のように語る。

「前作の『風立ちぬ』は『崖の上のポニョ』から5年かかっていました。今回の『君たちはどう生きるか』は企画が2017年からスタートしているそうですが、『風立ちぬ』から数えると10年。ご本人の要求水準もありますし、体力などいろんなことが原因で、新作に取り組むのには時間がかかるので、10年かけてもう一本つくるのは厳しいので、おそらく最後の監督作品になるのではないかと思います。アニメ映画としては、スケールの大きな作品になりそうですよね。黒澤明監督もそうでしたが、どんな巨匠でも晩年の作品はこじんまりとしていくんですけど、宮崎さんは逆を行っている。今回は、宮崎さんが書いた絵コンテを、本田雄さんが作画監督として具体化していくという形で作られているそうですが、本田さんの表現力があまりにも凄かったため、宮崎さんも絵コンテの内容をどんどん変えていったと鈴木敏夫さんが、ラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』(2019年11月24日放送)で語っていました(※2)。本田さんは庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』や今敏監督の『千年女優』の作画監督として知られているアニメファンの間では有名な方ですので、本田さんの作画にも注目しています」

風立ちぬ
『風立ちぬ』©︎2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

 今作は、吉野源三郎の同名小説のタイトルを借り、新たに生み出したオリジナルストーリーとされている。近年の作風の傾向から、成馬氏は絵の快楽を楽しむような作品になるのではと推測する。

「ジブリ時代の宮崎駿監督作品は基本的にはオリジナル作品です。『魔女の宅急便』と『ハウルの動く城』には原作がありますが、どちらかというと原案に近く、オリジナルの要素が強い。『風立ちぬ』は宮崎駿の連載漫画が原作ですが、航空技術者の堀越二郎の半生と堀辰雄の小説『風立ちぬ』が下敷きとなっています。ですので、今回の『君たちはどう生きるか』も原タイトルを借りたオリジナル作品になるのではないかと思います。また、作風に関しては、『風立ちぬ』が史実に忠実なリアリズムを突き詰めたような話だったので、今回は『崖の上のポニョ』のテイストに戻って、ファンタジー色の強い“アニメとしての快楽”を全面に押し出した作品になりそうですね。一つの作風を徹底的に追求した後、真逆に向かう映画監督は多いですが、宮崎さんは前作の反動で作風が真逆になるタイプ。タイトルとは裏腹に、楽しいアニメ映画になるのではないかと期待しています。『風立ちぬ』の次にジブリ美術館で上映した短編『毛虫のボロ』を作っていますが、そういう方向に近くなるのでは。タイトルを見て、説教臭い話になるのではないかと心配されている方も多いですが、僕はあまり気にしてなくて。宮崎さんは『風の谷のナウシカ』がヒットして以降、エコロジー思想をアニメで訴える思想家として雑誌等に露出する機会が多かったですが、『もののけ姫』以降は本人の露出もだいぶ減りましたし、メッセージ性を強く打ち出す思想家としての側面はだいぶ薄まっています。だから、タイトルほど説教臭い話にならずに、テーマより絵の快楽を追求した娯楽作品に原点回帰するのではないかと思います」

崖の上のポニョ
『崖の上のポニョ』©︎2008 Studio Ghibli・NDHDMT

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