『大奥』冨永愛に最大限の賛辞を! 創作と事実が自然と混ざり合う心地よさ
身分違いである信への思いを断ち切るため、大奥入りを決意した水野。将軍に謁見できぬ御目見以下の中で最も位の高い役職からスタートするも、新入りとして早速古参たちからの洗礼にあうことに。夜中に初めて同性に襲われ、無我夢中で刀を手に取り、唯一信頼できる同職の杉下(風間俊介)にからかわれては新鮮な驚きを見せる。原作よりもコミカルに演出された彼の一挙一動が微笑ましく、様々な人間の思惑が渦巻く大奥の殺伐としたムードを和らげた。
だが、ふと見せる水野の表情に大人の男性としての魅力が溢れる。特に大奥総取締・藤波(片岡愛之助)の計らいで御目見以上の御中臈に昇進。吉宗の将軍就任後初の総触れに参加することになった水野の上品に意匠を凝らした裃姿は、彼の矜持さえ感じさせる圧巻の仕上がりだ。そこで、水野は吉宗に見初められ、将軍の最初の夜伽相手である「ご内証の方」に選ばれる。だが、ご内証の方に選ばれたものは死罪という、家光の時代から続くしきたりがあった。結局は大奥の権威を示さんとする藤波の策略に巻き込まれたのである。
しかし、吉宗と、その右腕である久通(貫地谷しほり)の方が藤波よりも一枚上手。水野を死んだことにして故郷へ帰らせる粋な計らいを見せた後、35歳以下の眉目秀麗な男子たちを藤波に集めさせた上で彼らに暇を出す。このエピソードは忠実に沿っており、財政再建のために吉宗は同じ方法で女中たちをリストラしたという。こうした創作と事実がグラデーションのように自然と混ざり合う心地よさが、『大奥』の醍醐味だ。
第1話は原作ファンを唸らせる再現度の高い仕上がりとなっていた。まずは、吉宗役の冨永愛に最大限の賛辞を贈りたい。今作が時代劇初挑戦となった冨永だが、もともと日本の歴史に精通していたこと。また、殺陣や乗馬の練習をしていたことから、将軍としての振る舞いに説得力がある。その上で床を共にする相手にのみ見せる艶っぽさだったり、心を許した相手の前での無邪気な言動だったり、冨永のオリジナリティも至るところに見えた。彼女以上に女将軍・吉宗を体現できる人はこの世にいないのではないかとすら思えてくる。
久通を演じる貫地谷しほりの温和な中に漂う食えないオーラや、杉下を演じる風間俊介の何か重たい過去を抱えた憂いのある雰囲気、藤波を演じる片岡愛之助の見事なタヌキ親父っぷりなど、どのキャストもはまり役なだけに今後も期待大だ。
■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜 22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社