デイミアン・チャゼル監督最新作『バビロン』北米で賛否両論 記録的寒波で興行に大打撃

D・チャゼル監督『バビロン』北米で賛否両論

 12月23日~25日の北米週末興行収入ランキングは、先週に続いて『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』がNo.1を獲得。北米興収2.5億ドル、海外興収6億ドルを突破し、世界累計興収は早くも8.5億ドルに到達した。年内には10億ドルの大台を超える見込みだというから、さすがは『アバター』続編という勢いである。

 そのほか今週末は、『シュレック』シリーズのスピンオフ第2作『長ぐつをはいたネコと9つの命』、伝記映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』、ブラッド・ピット&マーゴット・ロビー主演による『ラ・ラ・ランド』(2016年)のデイミアン・チャゼル監督最新作『バビロン』と話題作が勢ぞろい。12月26日のクリスマス振替休日も手伝い、2022年を締めくくる盛況の3連休……になるはずだった。

 予想外だったのは、23日から北米を襲った記録的な大寒波だ。報道によると2億人以上が警報の対象となり、25日までに38人以上が死亡。クリスマスイブの12月24日には停電や旅客機の運休が相次いだという。せっかくのクリスマス連休だったが、多くの人々が外出を諦めざるを得ず、一部の映画館は休業を余儀なくされた。新型コロナウイルスの感染再拡大、インフルエンザやRSウイルスの流行もあいまって、映画館業界は年内最後に大打撃を受けるはめになったのである。

 報道によると、12月26日には天候も回復し、休業した映画館も営業を再開する見通し。金曜から日曜の3日間は映画興行へのダメージが大きかったが、月曜日からは“いつものホリデーシーズン”らしい興行に戻ると期待されている。

 したがって、今週末の興行成績は現時点で非常に曖昧なもの。たとえば『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の場合、3日間(金曜~日曜)の興行収入は5600万ドルという速報値に対し、実際には6300万ドル稼いだとの推定もある。4日間(金曜~月曜)の成績は8200万ドルとも、9500万ドルともいわれているのだ。数値が確定次第、ランキングの順位にも影響が出る可能性は否定できない。

 第2位『長ぐつをはいたネコと9つの命』は3日間で1135万ドルを記録。連休に先がけて12月21日に公開されたため、すでに累計興収は1745万ドル、さらに月曜日には2460万ドルまで数字を伸ばす見込みだ。Rotten Tomatoesでは批評家スコア95%・観客スコア93%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「A」評価と評判も上々である。

 しかし、本作はもともと初動成績3000万ドル超えと予測されていたため、言うなれば寒波とコロナ禍の影響をもろに受けた格好。幸いにも、ファミリー映画のライバルは2023年4月公開の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』まで存在しないため、しばらくは『長ぐつをはいたネコと9つの命』がその存在感を見せつけることになるだろう。日本公開は2023年3月17日。

バビロン
『バビロン』©︎2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

 一方、大人向けのドラマ映画が苦境に立たされる状況はまだ続きそうだ。第3位『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』は3日間で530万ドルを記録、4日間で750万~900万ドルとなる想定。第4位『バビロン』も3日間で350万ドル、4日間で530万ドルという数字が出ている。どちらの作品も1200万~1500万ドル規模のスタートが期待されていただけに、スタジオにとってはかなりの痛手。寒波の影響を鑑みるにせよ、ここから持ち直すのはかなりハードルが高い。

 『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』は、Rotten Tomatoesで批評家45%・観客92%、CinemaScoreでは「A」評価という、もはや近年珍しくもない評価の割れっぷり。かたや『バビロン』は賛否両論著しく、数値化するとRotten Tomatoesでは批評家56%・観客52%、CinemaScoreでは「C+」評価という結果になった。3時間9分という長尺も興行的には不利とあって、8000万ドルの製作費(宣伝費を除く)を回収するのは難しいだろう。

『バビロン』©︎2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

 しかし、あえて紙幅を割くならば、『バビロン』はデイミアン・チャゼル監督が“映画”への愛情を詰め込んだ悲喜劇であり、映画史を現在まで力強く引きつける野心作。『セッション』(2014年)の野心と狂気、『ラ・ラ・ランド』で描いた夢や恋愛の切なさと儚さを、サイレント映画期のスターたちの物語に凝縮したチャゼルの集大成だ。コミカルで切ないブラッド・ピットやマーゴット・ロビーの演技、ジャスティン・ハーウィッツの音楽など、3時間を感じさせない密度と情報量は映画館でこそ真価を発揮するもの。日本公開は2023年2月10日、ぜひお見逃しのないように。

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