『相棒』が真正面から描いた“悲劇” 右京の「どんな事情であれ、罪は罪です」が切なく響く

『相棒』が真正面から描いた“悲劇”

 悲劇とはもともと運命に抵抗して苦悩する人間の姿を描く劇のことであるという。12月21日に放送された『相棒 season21』(テレビ朝日系)第10話では、いたずらな運命に翻弄される人たちがもがいている様子を見ながら、「この中で、誰か一人でも幸せに」と思わずにはいられなかった。

 右京(水谷豊)と亀山(寺脇康文)は、宝石窃盗グループの一斉逮捕に参加。取り逃がした犯人を、しらみ潰しに捕まえる継続捜査にも協力する。そんな中、容疑者の1人が、黒いコートを着た女・茉奈美(橋本マナミ)に追い掛けられ、歩道橋から転落死する事件が発生。その直後、右京と亀山は、転落死した男のアパートで茉奈美に遭遇するが、事情を聞く前に姿を消してしまう。目撃者の証言によると、彼女は“ダイヤ”を探していたという。

 茉奈美が窃盗グループと何らかの接点があると見たふたりが周辺を捜査すると、転落死した男が最近、都内の輸入雑貨店の店主・安西正則(五代高之)を脅していたことがわかる。右京と亀山がその店を訪ねると、そこには安西夫妻の娘・美月(加藤柚凪)の姿があった。美月は、安西夫妻の年齢からすると、亀山が思わず「お孫さんですか?」と聞いてしまうほどの少女。その美月は数日前、茉奈美と公園で出会っていたのだった。

 茉奈美は幸せになりたいと願い、必死なのにもかかわらず、不幸続きの女だ。かつて茉奈美には夫と娘がいたのだが、娘が生まれてすぐ夫が病死。最愛の夫を亡くし、憔悴していた茉奈美は、不注意で娘に火傷を負わせてしまう。平穏な日々が戻ってきたかと思いきや、今度は公園にふたりで遊びに行った際、茉奈美がうっかり居眠りをしているうちに娘が誘拐されてしまった。その娘の名前は大きな愛と書いてダイア。そう、茉奈美が探していたのは宝石の“ダイヤ”ではなく、自分の娘だったのだ。茉奈美は子育てにいっぱいいっぱいではあったが、愛がなかったわけではない。その証拠に娘が誘拐されてからの6年間、ずっと娘を探してきた。彼女なりに運命に抗ってきたのだ。茉奈美の悲壮感さえ漂う表情から、それがひしひしと伝わってくる。

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