北条義時×北条政子の残酷で生々しい人生の肯定 『鎌倉殿の13人』最終回に寄せて

『鎌倉殿の13人』最終回に寄せて

「何のために生まれてきたのか、何のために辛い思いをするのか、いずれわかる時がきます」

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第42回において丹後局(鈴木京香)が、北条政子(小池栄子)に向けて言った言葉である。1年間通して見てきた、北条義時(小栗旬)、政子の、そして、大きな歴史の渦の中で翻弄された、たくさんの人々の、壮大な人生の物語が、遂に結末に辿りつこうとしている。

 いよいよ、最終回である。常に視聴者の予想をいい意味で裏切り続けてきた本作、並びに三谷幸喜脚本が一体どんな思いもよらない光景を見せてくれるか、全く想像がつかないが、第46・47回を振り返ることは、本作の主人公・北条義時と、北条政子の人生を総括することに通じる。よって、それを最終回への期待としたい。

 第46・47回は、史実上の最重要パートである、承久の乱に至るまでの後鳥羽上皇(尾上松也)と義時の攻防が描かれるのと同時進行で、元は「伊豆の小さな豪族」の“次男坊”義時と“行き遅れ”政子が、「遂にここまできた」「こんなに立派になった」物語としての1つの到達点を描いていた。そしてそれは、「多少(かなり)手荒なことも」したけれど互いを巻き込み、巻き込まれながら、鎌倉・北条のため、大切な人々のため、やるべきことを全力でしてきた彼らの人生の肯定だった。

 特に、政子が「尼将軍」になるまでの行程は、何をおいても特筆すべき秀逸さだった。なぜなら、多くの愛する人を亡くし、道を見失いかけていた政子の背中を押したのは、普段彼女の周りにいる義時でも実衣(宮澤エマ)でも広元(栗原英雄)でもなかった。

 心が折れそうになった時「甘えるな」と鼓舞したのは「大きな力を持つ方のお傍に仕えた似た者同士」である丹後局であり、死のうとした政子を止め「自ら死んではならぬ」と言ったのは「人殺しを生業とするしか生きる術がなかった女性」トウ(山本千尋)であり、政子の人生を「憧れ」と言った少女ウメ(石川萌香)だったからだ。政子の人生を全て知っているかのように「伊豆の小さな豪族の行き遅れがこんなに立派になられて」と喋りだした彼女は、少女のようで少女のようでなく、政子の過去のようで、かつて出会った誰かの縁者のようで、未来そのもののようでもあった。一見深い関わりのない女性たちが入れ代わり立ち代わり彼女の前に現れ、その人生を肯定し、大丈夫、このままこの道を行けと指し示す。それは、三谷幸喜が描いた「けっして“悪女”ではない、とても真摯な一人の女性」北条政子の人生の終盤に贈られた、最良の花道だったように思う。そしてそれは、政子が尼将軍になることで、武家社会の頂点に立ったというだけでなく、この時代を生きた女性たちの思いを担い、そこにいると思わせるものでもあった。

 そして、上皇の院宣を前に揺らぐ御家人たちを説得したという、かの有名な北条政子の演説は、本作においてもう一つの重要な意味を担うことになった。それは、自らの死でもって鎌倉を守ろうとしていた彼女の弟・義時の決意を変えさせるための試みという意味合いである。

 本作は、いろんな人の要望を聞いては頭を悩ませ、走り回っていた気のいい青年が、やがて冷徹極まりない孤高の権力者になるまでの変化を見届ける物語である。でも彼自身の変わらなさも視聴者は見てきたはずだ。彼の行動の全ては「頼朝様の作った鎌倉を守るため」であり、兄・宗時(片岡愛之助)の「板東武者の世を作り、そのてっぺんに北条が立つ」という野望を叶えるためであり、後を継ぐ息子・泰時(坂口健太郎)が担う新しい時代のためだった。生真面目に、己を捨て生きてきた彼の人生の「変わらない部分」を、政子の演説は真っ直ぐに肯定する。

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