どこかで必ず見たことのある名脇役・矢柴俊博 『相棒』『祈りのカルテ』で発揮した二面性

どこかで必ず見たことのある名脇役・矢柴俊博

 ミステリーは大抵そういうものと言われるかも知れないが、確実に事件に巻き込まれているのにボロを見せず、のらりくらりと右京を翻弄していく。視聴者は矢柴の存在感だけで想像を膨らませていく。いつもの『相棒』の雰囲気とは違い、ミヒャエル・ハネケ作品や『私立探偵 濱マイク』の青山真治監督回のような何とも言えない不気味さがある。

 『相棒』には以前、幽霊視点の回があったが、『season21』の第4話も同じような特殊回と言える内容だ。右京が謎を解明し、そして最後にカレーを食べる時には、無機質な不気味さが抜け、優しさが滲みでた顔で店長と肩を並べカレーを食べる。そこには、矢柴の緻密な演技プランがあったことが伺える。

『相棒』事件解決のその先を描く綿密な脚本 矢柴俊博&長村航希の秀逸な演技も

「遺書」と書かれた封筒に、ロープを手にする男。11月2日放送の『相棒 season21』(テレビ朝日系)第4話は冒頭から衝撃的な…

 『相棒』では心の読めない人物を演じた一方、『祈りのカルテ』では、遠慮がちな義理の息子・良太に心の内を知ってほしい義父を演じている。特に第6話では、良太の同窓会の手紙の宛名が、旧姓の小林だったことについて問い正しにきたとき、「良太! ……くん」と父の威厳を見せようとするも、やはり君付けしてしまう義父の弱さを見せた。その場面だけで、2人のこれまでの関係性や、良太の今の性格が形成された理由が十分に伝わってくる。単純に場を和ませるコミックリリーフではなく、しっかりと主人公の人となりを際立たせ、物語のピースを埋めていく作業をしている完璧なサポートだと感じた。

 作品によって別人のように見える俳優を“カメレオン俳優”というが、同じ“カメレオン俳優”でも矢柴の場合は、ミステリーなら怪しい雰囲気を醸し出し、人情ものだったらいい人オーラを全開にして、作品のトーンを完全に自分のものにしてしまう力がある。どんな環境にも擬態して合わせられる本物のカメレオンのようなところが、ほかのバイプレイヤーと一線を画すところだろう。

■放送情報
土曜ドラマ『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:玉森裕太、池田エライザ、矢本悠馬、濱津隆之、堀未央奈、YU、松雪泰子、椎名桔平
原作:知念実希人『祈りのカルテ』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
脚本:根本ノンジ
演出:狩山俊輔、池田千尋
チーフプロデューサー:田中宏史
プロデューサー:藤森真実、戸倉亮爾(AX-ON)
音楽:サキタハヂメ
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/inorinokarte/
公式Twitter:@inorinokartentv
公式Instagram:@inorinokartentv

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