松下洸平が積み重ねていく立体的な人物像 『アトムの童』隼人役で見せる実直さ

松下洸平が積み重ねていく立体的な人物像

 松下洸平は、演じる役の“過去”を置き去りにしない俳優だ。

 山﨑賢人が主演を務める連続ドラマ『アトムの童』(TBS系)に出演中の松下。本作はゲーム業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者の那由他(山﨑賢人)が経営難の老舗玩具メーカー「アトム玩具」の仲間とともに、因縁の相手・興津(オダギリジョー)率いる大資本の企業に立ち向かっていく、日曜劇場らしい下克上の物語だが、決して暑苦しくはない。爽やかな青春ドラマにも思わせてくれるのが、那由他と、松下演じる隼人の忌憚のないやり取りである。ふたりの喧嘩するほど仲がいい男子小学生のような、わちゃわちゃとした雰囲気は見ていてとても微笑ましい。

 隼人は、かつて大学生にして那由他と「ジョン・ドゥ」名義で傑作ゲームを生み出していた敏腕クリエイター。那由他にとってはいわゆる“相棒”のような存在であったが、隼人がジョン・ドゥ分裂のきっかけを作った興津の会社に入ったことにより、長年袂を分かっていた。松下といえば、人の良さそうな柔らかい物腰が印象的だが、序盤はその鳴りを潜める。パリッとしたスーツに身を包み、興津と交渉する姿は打算的な人柄を思わせた。

 それでもなお、隼人が敵に寝返ったのは何か訳があるはずと確信していた人も多いのではないだろうか。それは、松下がこれまで誠実な役を演じてきたという以上に、隼人がふとした瞬間に見せる仕草や表情に彼の葛藤が滲み出ていたから。何かを覚悟しているようでいて、どこか寂しそうな気配は隼人が単なる裏切り者ではないことを物語っていた。そして、第2話で隼人が那由他と作ったゲームを興津から取り戻そうとしていたことが明らかに。那由他と和解して以降の隼人は、水を得た魚のように輝きを取り戻していく。

 松下は役づくりにあたり、監督から眼鏡をかけたキャラクターと聞き、普段から丁寧な暮らしを送っている人物像をイメージしながらも年齢設定に着目したという(※)。実のところ隼人は松下の実年齢よりも7歳年下の28歳という設定であり、その落ち着いた振る舞い以上に若い。だから隼人の冷静で真面目な人柄の中から溢れ出る、夢や目標に向かって突っ走れるパワーや、一方で大人になりきれない未熟さも、松下は芝居で表現しようとしている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる