『舞いあがれ!』赤楚衛二の嘆きに共感が集まったワケ 貴司の人生に大きな希望の光を

『舞いあがれ!』赤楚衛二の嘆きに共感の声

 連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)の第7週となる「パイロットになりたい!」が放送された。舞(福原遥)にはパイロットになるという新しい夢ができた。だが、そのためには今の大学を中退して航空学校に入らなければならない。突然、この話を聞かされためぐみ(永作博美)は当然のごとく反対をする。時を同じくして、舞の幼なじみたちもまた、自身の置かれる境遇に悩みを抱えていた。その一人である貴司は、自分を見つめ直すために五島列島を訪れる。それを心配した舞と久留美(山下美月)は、貴司(赤楚衛二)を追いかけるのだった。

 これまで、どんな時も舞を優しく受け止めてきた貴司。その存在は舞にとってかけがえのないものであると同時に、視聴者にも多くの癒しを与えてくれた。しかし第7週では、そんな貴司が人と足並みを揃えることの難しさに直面し、しんどくなってしまう姿が描かれる。そもそも貴司は幼少期の頃から、舞に変わって「飼育係をやりたいんだって」と気持ちを代弁してくれるような繊細な感受性を持っていた。友だちに誘われサッカーに行くときにも「合わせてるだけや」と言うなど、足並みを揃えつつもなにか自分というものを持っていると感じられる子供であった。舞が送った五島列島のハガキに見入る姿や、デラシネで詩に夢中になる様子を見ても、その強い感性で多くのことをキャッチしてきたのだと感じる。その一方で、繊細すぎて心が苦しくなってしまう一面も。本当だったら飲み込んで前に進めたかもしれないことも、胸の中に渦巻いてしまうのだろう。

 赤楚衛二は、優しく、穏やかで、繊細な貴司の様々な表情をしっかりと演じ分ける。たまに困ったような表情で笑う姿が、“貴司らしい”と感じるのは、赤楚がこの短期間で貴司というキャラクターをしっかり確立してきたからだろう。デラシネが閉店してしまうことを知った貴司の愕然とした表情も忘れられない。うたた寝から起き上がったと思ったら八木(又吉直樹)が閉店のための張り紙を書いていることを知ったときの、横顔から滲み出るその絶望は貴司にとっての“支え”が崩れていく様子を示していた。赤楚は貴司が抱える、暖かく和やかな表情から、ふとした時に消えていなくなってしまいそうな脆さまでを非常に細やかに表現してきたのだ。

 やがて貴司は五島での出会いと経験をきっかけに、旅をしながら各地をまわって暮らしたいと両親に申し出る。「普通」でいることが難しいと嘆く貴司は、八木の背中を追うようにあちこちを流浪する人生を選んだ。きっと楽なことばかりではないだろうが、そこでの経験は貴司の短歌を最高に輝かせることができるのではないだろうか。貴司の新しい人生がひらけていくことを祈りたい。父・勝(山口智充)が「おまえがそう言うんやったら、やったらええ」と肯定してくれた時にハッと顔を上げた貴司の瞳にみるみる光が宿ったように、貴司の人生にも大きな希望の光が灯ることを願う。

 SNSではこうした貴司の苦悩に「その辛さが痛いほどに分かった」など共感の声も多数寄せられた。もしかしたら多くの人が経験したかもしれないこの感情は、赤楚が演じてくれたことでより広く視聴者から理解を得られたのではないだろうか。貴司の人生を受け止めるとともに、私たちも自分自身や他者の中の、こうした生きづらさを理解し寄り添える存在になっていきたいと思った。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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