『ONE PIECE FILM Z』で描かれたルフィの“覚悟”とは? 大人に刺さる物語の魅力

『FILM Z』は大人にこそ刺さる

 10月29日21時から、フジテレビ系『土曜プレミアム』で『ONE PIECE FILM Z』(以下、『FILM Z』)が約6年ぶりに地上波で放送される。同作は興行収入68.7億円を記録しており、現在大ヒット上映中で興行収入約170億円を超えた(10月24日時点)『ONE PIECE FILM RED』に抜かれる前はONE PIECE映画の中で1位の興行収入を記録していた人気作だ。

 そもそも、 ONE PIECE映画には『FILM Z』をはじめ、『ONE PIECE FILM GOLD』とタイトルに“FILM”とついた“FILMシリーズ”がある。FILMシリーズは原作者の尾田栄一郎が製作総指揮と総合プロデューサーを務めたもの。ONE PIECE映画はあくまで“パラレルワールド”ではあるものの、原作との関わりが伺える描写も少なくなく、ONE PIECE好きとしては観る際に気合が入ってしまう。

 とは言え、例えば「『ONE PIECE』は空島編でリタイアした」という人も楽しめる内容ばかりであり、とりわけ『FILM Z』は原作をあまり知らない人でも満足感を得られる。そこで『FILM Z』の魅力について語りたい。

開始早々に始まる新旧海軍大将の対決

 『FILM Z』はとにかくバトルシーンが秀逸だ。冒頭からいきなり、本作におけるルフィの最大の敵であり、元海軍本部大将かつ海賊の殲滅を目論む“NEO海軍”総帥 ・Zと黄猿の新旧海軍大将同士が対決する。圧倒的な戦闘力を誇る黄猿と互角に渡り合い、「ボルサリーノ、ピカピカの実の能力に頼り過ぎるなと俺は忠告したはずだが?」と上から目線のセリフを口にするZがカッコいい。また、重厚な効果音、素早いカメラワークなど、魅せ方もダイナミック。ただ、命を削りあっている2人の緊張感も表情の機微からひしひしと伝わり、一気に心を奪われる。

 映画開始早々からド派手なドンパチが繰り広げられるが、その後のバトルシーンもとにかく多い。基本的には序盤にルフィたちが負けて、その後もう1度戦って勝つ、というパターンがONE PIECE映画の定番である。しかし、『FILM Z』ではルフィはZに2回負ける。つまり、ルフィはZと劇中で3回戦う。1回目は海楼石で作られた武器“バトルスマッシャー”に圧倒され、2回目はバトルスマッシャーを警戒するあまり海楼石の銃弾を浴びて完敗。3回目はお互いの意地と意地がぶつかる殴り合い、という各々パターンが違う。そして、拳を交えるごとにZの魅力も引き出されていくため、バトルを重ねるごとに観客も物語に引き込まれていくのだ。

涙なしでは見られないラスト

 ただ、ルフィと3回戦った時よりもZが海軍と1人で対峙したラストが一番熱い。Zから指導を受けていた中将たちが涙を流しながら、Zが戦う姿を見ている様子はこみあげてくるものがある。ここは個人的には、『銀魂』の『真選組動乱篇』のラストで伊東鴨太郎が真選組の隊員に囲まれながら命を落とすシーンが浮かんだ。その時、銀時が口にした「奴を薄汚ねぇ裏切り者のまま、死なせたくねぇんだよ」というセリフがある。

 中将たちも自分を育ててくれた恩師を“海軍の裏切り者”としてではなく、新兵だった時の気持ちで最後を見届けようとしていたのではないか。実際、Zは「お前たちに最後の稽古をつけてやる」と口にしており、Zも中将たちの思いを汲んだうえで応戦していたのかもしれない。いろいろな感情やら妄想やらが頭の中を駆け巡るシーンであり、ラストのラストまで気が抜けない素晴らしいストーリーだ。

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