“サイコ”な女優、渾身の演技を見逃すな “埋もれてしまった“傑作『君だけが知らない』
もしも一番身近な人が何かを隠していたら、見たことのない姿を目撃してしまったらーー。最も信頼していた人を疑うのはどんなに不安で孤独だろうか。しかも自分の記憶はないのに悪い未来ばかりが見える。そんな状況に置かれているスジンを熱演したのはソ・イェジだ。今回彼女が演じるのは、『サイコだけど大丈夫』(2021年)や『イブ(原題)』(2022年)での役柄のように見た目が派手で刺激的なキャラクターとは正反対の、薄いメイクに控えめな服装の清楚で可愛らしい若妻。そのあどけなさが、何も知らない純粋な少女が怯えるように映って迫力が増したかと思えば切なく悲しい姿にも映り、ソ・イェジの凄みを再確認できる。
加えて、過去、現在、未来のどこに立っているのか混乱するスジンが抱く不安、恐怖、孤独の感情を最大限かつ繊細に表現。臨場感を高める演技により、作品の世界へと即座に引き込きこまれてしまう。少し低めで耳に入りやすく印象に残る彼女の声は、相手を疑う時、うろたえて声が震えている時など、じわじわと恐しさが押し寄せるミステリーやサスペンスものとも相性がいい。観賞中は思わずソ・イェジに圧倒されてしまうが、スジンの感情ばかりに引きずられてしまわないよう要注意だ。対する夫のジフンに扮するキム・ガンウも韓国映画界で活躍している実力派俳優。それぞれの視線でストーリーが展開されていく中で、2人が繰り広げる圧巻の演技合戦により観ている側の心臓の鼓動を加速させ、より一層の緊張が走る。
ソ・イェジの高い演技力が認められ日本でも一躍有名になったのは、先述したドラマ『サイコだけど大丈夫』だろう。エキセントリックな童話作家のコ・ムニョン役で高いカリスマ性を発揮、反社会的な性格で愛に飢えたヒロインを演じトップ女優に踊り出た。また本格ヒーロー・ラブサスペンスの『君を守りたい~SAVE ME~』(2017年)では、宗教団体に捕われたヒロイン役を演じており、本当に憑依したかのようなインパクトのある演技に脅威を感じた記憶がある。ソ・イェジは2013年にシットコム『じゃがいも星』でデビューし、『花郎<ファラン>』(2016年)や『無法弁護士~最高のパートナー』(2018年)などで着々と女優としてのキャリアを積んで知名度を上げてきた。強気で毒々しい強烈なキャラクターから笑顔のかわいい素朴なヒロインまで幅広く役柄を演じ分け、作品を観るごとに彼女の実力が確立されていくのも感じられる。
それだけにスキャンダル騒動については残念ではあったが、2022年6月にドロ沼復讐劇『イブ(原題)』でドラマ復帰を果たした。復讐に生きる妖艶で大胆なイ・ラエル役として、抜群なプロポーションを生かしたファッションも話題となりカリスマ性は健在。復帰を待ち望んでいたとの声も聞かれた。日本ではこのドラマに続いて公開される作品となったのが本作である。『君だけが知らない』では、変わらない存在感と役者としてのますますの魅力を深めているソ・イェジと対面するだろう。劇場でしかと見届けていただきたい。
■公開情報
『君だけが知らない』
シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、UPLINK吉祥寺、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国公開中
出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク
監督・脚本:ソ・ユミン
配給:シンカ
2021年/韓国/ 韓国語/100分/カラー/スコープ/5.1ch/英題:Recalled/字幕翻訳:石井絹香
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公式サイト:https://synca.jp/kimishira/
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