松田龍平の存在に感じる“共感”と“恐怖” 『鵜頭川村事件』に漂う空虚さ

松田龍平の存在に感じる“共感”と“恐怖”

 「好きな俳優って誰?」という話題は鉄板ネタだが、映画やドラマのキャストに名前が入っていたら気になってしまう存在のひとりが松田龍平だろう。

 観ているこちらがアプローチしたくなる人懐っこさとその攻めに流されてくれそうな隙を持っていて、すべてを俯瞰していそうなアンニュイな表情からは冷酷さが滲む。実際の松田がそんな男であるかは定かではないが、彼の芝居にはそれ故のスリリングさがあり、そこに含まれたある種の中毒性は、この世に存在するモテ男にも通ずるものがある。映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で、黒川芽以演じる植村が松田演じる青山のことを「うわべだけ優しそうで冷たい感じがするんですよ」と言っていて、筆者は共感したと同時に、これはそのまま松田龍平という俳優にも当てはまるのではと思った。

『散歩する侵略者』©︎2017『散歩する侵略者』製作委員会

 どこにでもいそうなリアリティがある一方で、亡霊のような空虚さもある。その対極な要素を兼ね備えていることが、松田龍平という俳優を稀有な存在にさせている理由の一つだろう。特に近年その空虚さは顕著に表れている。その真骨頂が映画『散歩する侵略者』だった。芝居のスタイルというより彼そのものから滲んでいる気もしてしまうというナチュラルヤバさ。オーガニックなホストと呼ばれ全視聴者が共感したであろう『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)でも、“かつて出会ったモテ男”に見えていたはずが、かごめ(市川実日子)を亡くして以降は、どこにいても浮いてしまう現実離れした存在に見えたりもした。リアルなようでいて夢の中にいるような不思議な感覚にさせてくれるから面白い。

 そしてそれは作品に歪さをもたらす。もはや“そこに松田龍平がいる”ということは、その物語が“普通の話”では終わらないというサインにすらなっている。

『連続ドラマW 鵜頭川村事件』©︎WOWOW

 『連続ドラマW 鵜頭川村事件』(WOWOW)での松田龍平もやはりどこかおかしい。彼が演じる岩森明は、失踪した妻を捜すために妻の故郷・鵜頭川村を訪れる医師だ。物語でいえば巻き込まれる側にいる立ち位置。確かに鵜頭川村という村からは不穏な空気が漂うし、岩森は“平穏に暮らしていたはずなのにいつの間にか巻き込まれてしまった人”に見える。だけど、この人はやっぱり何かがおかしい。冒頭からそう思うのは、松田龍平が岩森を演じているからだろう。

 大雨により村が孤立状態となり、村人は次々と何者かに殺され、助けは来ない、食糧も底を尽きそうという極限状態に追い込まれたとき、少しずつ岩森の本質が明らかになっていく。ささやかな所作にほどその人の本質というのはこぼれ落ちてしまうものだ。でもおそらく岩森は自分のことを“正常”だと思っている。一見、普通に見える男に潜む狂気。松田龍平だからこそハマる。

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