杉咲花の言葉が心に残り続ける 『プリズム』が描く“愛”という感情のままならなさ

『プリズム』が描く“愛”のままならなさ

 本作は、傷つくのも相手を傷つけるのも怖くて、なかなか前に進めない人々の物語だ。皐月は、かつて父親が自分と母親の元からいなくなった経験から、「結婚」という形に囚われることに違和感を持ち続けている。「きれいだと感じるものをきれいなまま閉じ込められたらいいのに」「人と人との間にずっと続くものがあったらいいな、それが愛なのかどうかわからないけれど」と言う皐月は、幸せだったかつての家庭の光景をテラリウムの中に閉じ込め、じっと眺めて生きてきた。彼女はずっと「永遠に変わらない美しいもの」への憧れを胸に抱きながら生き、「本気になってダメだった時に、自分に何もなくなることが怖く」て、前に進むに進めなかった。

 そのテラリウムの中に、同じくかつて自分が失った幸せの象徴、実母が作った庭の光景を見た陸。陸と悠磨は、それぞれに「傷つく」という言葉をよく口にする。「そんなこと、無駄に傷つけられるだけ」「もう誰にも傷ついてほしくない」。世間、その最小単位である家族からの「普通」の押し付けや不理解、謂れのない中傷にたくさん傷ついてきたからこそ余計に、彼らは「傷つくこと」に敏感だ。

 それぞれに違う思考を持った人間同士が共に生きることで、互いを支え合う、理想的な共存の仕方を阻むのは、それぞれの「愛」がもたらす一筋縄ではいかない感情だった。互いへの愛と優しさと、自己犠牲の精神でなんとか保っていたバランスが、皐月の言葉によって崩れた、第8話。「3人がお互いに傷つけあわないように関わっていくことはおかしいかな」と投げかける陸に対し、「無傷で人を愛すなんて、そんな生易しいことできますか?」と返した皐月。

 人間の「愛」という感情はままならない。「愛」は本人の意志とは反対に、変わりゆくもので、抗えないもので、人を簡単になぎ倒してしまうものなのだから。傷つかないように、誰も傷つけないように、人とちゃんと向き合うことから逃げていたら、恋も愛も人生も何も始まらない。本作は、そう言って、臆病な私たちの背中を押してくれる。

「自分が幸せじゃないと、他の誰かを幸せにすることなどできない」

 それぞれにとっての最良の道を模索する彼ら彼女らは、どんな道を選ぶのか。

■放送情報
ドラマ10『プリズム』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送<全9回>
出演:杉咲花、藤原季節、森山未來ほか
作:浅野妙子
音楽:谷口尚久
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、岡本幸江(NHK)
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる