『リコリス・リコイル』は“使命”と“選択”の物語 三者三様の意志が交錯する最終章

 いよいよ最終章に突入した『リコリス・リコイル』。可愛らしい登場人物たちや爽快なガンアクションで大きな注目を集めているが、各々に課せられた使命に対してどういった選択をしていくか丁寧に描かれている点も本作の魅力のひとつだ。

 未来を選び取らんとしているのは、リコリスとしての使命ではなく相棒のために戦う決意をしたたきなであり、殺しの才能を活かす使命を背負いながらも人を殺さない千束であり、あるいは、類い稀な天才を世に届けるため「娘」に使命を課す吉松もその一人なのかもしれない。

たきなの「戦う理由」の変化

 たきなにとって千束は、新しい選択肢を示してくれた存在だ。

 転属という名の左遷は当初こそ不本意なものであり、彼女はDAへ戻ることを目指していた。DAで働くことはリコリスの憧れと同時に使命であり、唯一正解とされる選択であったからだ。

 実はその左遷はDAの秘密を守るための隠れ蓑だったと判明しているが、使命を奪われた当時のたきなにとってはたまったものではない。

 復帰が絶望的であるという事実に落ち込むたきなに対し、千束は声をかける。

「お店のみんなとの時間を試してみない? それでもここ(DA)がよければ戻ってきたらいい」
(「#3.More haste, less speed」より)

 千束は自身の信念との相違からDAとは異なる道を進んでいるが、たきなが抱くDAへの憧れを無下にしたことはない。常に本人の意志を尊重し、喫茶リコリコで働くことが正解とも断言せず、その上で第二の選択肢として提案したのだ。

 たきなは店での交流を通して、DAで働くリコリス以外の生き方を知っていくことになる。いくつかあるエピソードの中で、ここでは第8話の経理担当就任に注目したい。

 赤字経営が続いていた喫茶リコリコを黒字にするため、彼女は支出の見直しや大胆な投資などの改革を行っていく。提案したパフェが思わぬ方向で流行ることは予想外であったが、無事に目標は達成された。

 合理的な判断から、時には周りが驚くような行動も臆せずする。奇しくも左遷のきっかけである独断行動を起こすことになったその才能を、たきなは活かすことができた。新たな居場所を手に入れた彼女を語る上で、それは大きな意味を持つ出来事だったのではないだろうか。

 そして第10話でついにDAへ復帰することになるが、以前の使命感ではなく自らの意志で銃を取ることを、何よりもたきな本人が自覚しているだろう。

 2カ月という千束の残り時間を共に過ごすこともできた中で、作戦のターゲット・真島を通して吉松を見つけだすため、そしてこれまで新たな可能性を示してくれた千束を救うために、たきなは戦うことを選んだのだ。

親からの使命、娘知らずーー千束の選んだ生き方

 幼い頃から殺しの才能を見出されていた千束は先天性心疾患を抱えており、アラン機関の吉松によって人工心臓を提供された過去が第9話で明らかになった。

 「救世主さん」と同じように誰かを助けたいという想いから、千束は人を助け、そして人を殺さないことを信念に掲げてきた。しかしそれは、アラン機関の想定する使命と相反するもの。千束のことを「自分たちの娘」と語った吉松の言葉を踏まえると、親の心子知らずとはまさにこのことなのである。

 たきなに選択肢を示し判断を委ねる千束と、喫茶リコリコでの日々をままごとと揶揄し使命以外の選択肢を取り上げる吉松。親娘の対比は、本人の選択を尊重するか否かというところにも現れていそうだ。

 吉松と姫蒲によって人工心臓が充電不能になり、喫茶リコリコで働くという選択肢があと2カ月となってしまった千束本人は、少なくとも人前では特に動揺を見せることなく過ごしている。

 それは、もともと人生の時間が限られていることを誰よりも理解していたからこそ、彼女が理不尽な現実に腐らず「やりたいこと最優先」で行動を選択し続けてきた結果なのかもしれない。

「自分でどうにもならないことで悩んでもしょうがない 受け入れて全力! だいたいそれでいいことが起こるんだ」
(「#9.What’s done is done」より)

 予告動画#10でも、これまで通り看板娘として過ごし、もう一人の「親」であるミカとの微笑ましいやりとりを垣間見せる千束。彼女が楽しく過ごす日々がこれからも続くことを、彼女に救われたたきなをはじめとする喫茶リコリコのメンバーも、そして視聴者も、誰もが願わずにはいられない。

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