『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』はなぜアメリカで人気を勝ち得たのか
それだけでなく、同じくナターシャ・ロスウェルが演じるキャラクターが、ハワイの結婚式で大暴れするという、本筋とはあまり関係のない描写も妙に気合が入っていて、非常に楽しい。また、ソニックが留守番中に、トム・クルーズが演じた『卒業白書』(1983年)の青年のように家でハメを外しまくるシーンや、シベリアの粗野な酒場でトラブルを起こすところも見どころだ。このあたり、家族や恋人の付き合いなどで本作を観にきた、あまりソニックに興味のない観客たちをも楽しませようとする、作り手の意図が感じられる。
ゲームのファンを喜ばせるのはもちろんだが、それだけでは娯楽大作として大勢の観客に支持されるものにはなりづらい。そこで、作品に足りない魅力を補完しようとする発想が生まれることになる。この判断からは、ソニックが超高速で活躍する部分との内容との乖離や、いささか作り手側の冷めた印象をも与えられるが、おかげで作品は荒唐無稽なバトルだけでなく、観客の生活と結びついた感覚が維持できているのである。本シリーズが多くの観客に満足感を与えるのは、ここに大きな理由があるのではないか。
現実から遊離しようとする度に、逆のベクトルに引き戻し、地に足をつける。これは、『アベンジャーズ』(2012年)のラストで、地球の危機を救ったヒーローたちに、小さなトルコ料理店でファストフードを食べさせて、観客を大ウケさせたやり方に近い。ソニックもまた、日常のなかに喜びを見出し、日々を楽しむ小市民の一人として描かれる。地球を救うことが、休日に湖で釣りをしたり、スポーツの後にアイスクリームを食べに行くような、我々にも結びつく小さな幸福を守ることに関係するのである。
本シリーズでメジャーな映画監督となったジェフ・ファウラー監督は、アメリカの田舎の地中で暮らすホリネズミ(Gopher)を主人公にした短編アニメーション『Gopher Broke(原題)』を、過去に手がけている。この「Gopher Broke」という題名は、かつてアメリカのアニメシリーズ『ルーニー・テューンズ』の一つのエピソードタイトルともなっている。その内容はどちらも、ホリネズミが農場の野菜を奪おうとするものだ。これは、ホリネズミがアメリカで農作物に被害を及ぼしているという状況をネタにしたものである。農家とネズミとの戦いの歴史は、ドタバタ劇と相性がいいのである。
その意味では、本作における科学者とハリネズミとの戦いは、『ルーニー・テューンズ』によくある、追いかけっこバトルの延長上にあるものと理解することもできる。ジェフ・ファウラー監督は、このような解釈で『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』をアメリカの精神や、生活の実感と、超自然的なアドベンチャーやバトルを結びつけているのである。そう考えれば、本作がアメリカでこそ評価されるというのは、やはり必然的だったといえるのではないだろうか。
■公開情報
『ソニック・ザ・ムービー/ソニック vs ナックルズ』
全国公開中
監督:ジェフ・ファウラー
脚本:パット・ケイシー、ジョシュ・ミラー、ジョン・ウィッティントン
ストーリー:パット・ケイシー、ジョシュ・ミラー
製作:ニール・H・モリッツ、トビー・アッシャー、中原徹、奥野仁
製作総指揮:里見治紀、杉野行雄、内海州史、ナン・モラレス、ティム・ミラー
出演:ジェームズ・マースデン、ベン・シュワルツ、ティカ・サンプター、ナターシャ・ロスウェル、アダム・パリー、シェマー・ムーア、コリーン・オショーネシー、イドリス・エルバ、ジム・キャリー
日本語吹替版:中川大志、山寺宏一、木村昴、広橋涼、中村悠一、井上麻里奈、中村正人
配給:東和ピクチャーズ
原題:Sonic the Hedgehog 2
©︎PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.
公式サイト:sonic-movie.jp