ピーター・バラカンによる音楽映画祭、上映スケジュール発表 全上映作品の解説も
ピーター・バラカンが監修・作品選定を務めた映画祭「Peter Barakan's Music Film Festival」の上映スケジュールとメインビジュアルが公開された。
ピーター・バラカンが“本当に面白い”と思った作品を厳選して上映する本映画祭。昨年に続いて2回目の開催となる。
今回の注目作はアメリカ音楽のルーツを巡る全4部作の大作ドキュメンタリー『ア メリカン・エピック 1〜4』。当時まだよく知られていなかったロンドンのレゲエ・シーンを描いた 1980年製作の『バビロン』。世界から注目を集めるバンド「民謡クルセイダーズ」を撮った『ブリング・ミンヨー・バック!』。1950年代にコンゴでキューバ音楽を演奏したミュージシャンたちの記録『ルンバ・キングズ』。結成前のローリング・ストーンズのメンバーらが集まっていた伝説のブルーズ・クラブに迫る『ブリティッシュ・ロック誕生の地下室』。いずれも日本初公開となる。
そのほか、2021年の映画シーンを盛り上げた『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』、『アメリカン・ユートピア』などがラインナップされている。
全上映作品発表にあわせて、ピーター・バラカンの作品解説コメントが寄せられている。
ピーター・バラカン作品解説
『アメリカン・エピック エピソード1-4』日本初公開作品
電気による録音が可能になった1925年から、アメリカ各地の住民を視野に入れたレコードが作られるようになりました。そのプロ セスを描いた3部作のドキュメンタリーではフォーク、カントリー、ブルーズ、ジャグ・バンド、ゴスペル、ケイジャン、ネイティヴ・アメリカン、ハワイアン、ラテンの世界を掘り下げ、最後の長編では甦らせた20年代の機材で現役世代のミュージシャンたちが当時の曲を再現する姿が記録されています。2017年にイギリスとアメリカのテレビで放映されたシリーズの日本初上映です。
『バビロン』日本初公開作品
ロンドンのレゲェ・シーンを舞台に、作り物とは思えないリアリズムでアスワドのブリンズリー・フォードが演じるサウンド・システムのDJの活動を追うストーリーです。1980年に公開された頃には全く知らなかった作品ですが、今見てもその時代のロンドンで人種差別がいかに横行していたか、ありありと伝わります。
『ブリング・ミンヨー・バック!』日本初公開作品
ここ数年の日本から出たバンドで最も国際的な可能性を秘めているのが民謡クルセイダーズだと思います。福生を拠点に活動するこのユニークな発想の大所帯バンドが少しずつ認められて、海外でもライヴを行うようになる姿を撮った楽しいドキュメンタリーのプレミア上映です。
『ルンバ・キングズ』日本初公開作品
アフリカのコンゴで1950年代にキューバのラテン音楽に独自の解釈を加えたミュージシャンたちは祖国に新たなアイデンティティをもたらし、国民的英雄と祭られました。コンゴの独立にもつながるこの音楽はアフリカ全土で一生を風靡しました。そのプロセスを描いたこの優れたドキュメンタリーは日本初上映です。
『ブリティッシュ・ロック誕生の地下室』日本初公開作品
イギリスのロックが誕生した地下室。嘘のような本当の話です。結成前のローリング・ストーンズのメンバーが1960年代初頭に集まっていた西ロンドンのイーリングのブルーズ・クラブは今や伝説となっています。当時のことを振り返る様々な関係者のインタヴューはファンにとって興味の尽きない内容です。日本初上映です。
『タゴール・ソングス』
ノーベル文学賞を1913年に受賞した詩人として有名なラビンドラナート・タゴール。インドの特にベンガル地方では彼が作曲した数々の歌は時代が大きく変わった今も驚くほど広く歌い継がれています。この題材を身近に感じるように綴ったこのドキュメンタリーは製作当時 26歳の佐々木美佳さんの初監督作品です。
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
1969年の夏、ニューヨークのハーレムの公園で1ヶ月半にわたって開催された音楽祭の様子を撮ったこの傑作コンサート・フィルムは2021年度のグラミー賞とアカデミー賞を受賞しました。社会的な背景も絶妙に盛り込んだこの作品、映画館の大きい画面で見るラスト・チャンスを見逃さないでください!
『ディーバ デジタルリマスター版』
アフリカン・アメリカンの女性オペラ歌手を主人公に、公演のためにパリを訪れている彼女の歌を無断で録音したテープを巡るとてもシャレたミステリーです。ジャン・ジャック・ベネックスの記念すべき1981年の監督デビュー作、日本では久しぶりの上映 です。
『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』
アメリカ南部アラバマ州の僻地で1960年代初頭につくられたレコーディング・スタジオからソウル・ミュージックの多くのヒットが生まれた物語のドキュメンタリーです。アリーサ・フランクリン、ウィルスン・ピケットなどからポール・サイモンやレナード・スキナードまで名曲だらけの映画です。
『アメリカン・ユートピア』
2021年の日本映画シーンで大きな話題となったこのコンサート・フィルムによって、かつては「トーキング・ヘッズの」デイヴィッド・バーンはいきなり若い世代にも知られるようになったほどです。もう一度見たい方も、見逃してしまった方も、ぜひこの機会に!
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』
キャリアのピークに達した29歳のアリーサ・フランクリンは突然LAの教会で録音したゴスペルのライヴ・アルバムを1972年に発表すると彼女の全作品の中で最高の売り上げを記録しました。そのライヴ収録を撮影した映像は諸事情のために半世紀近く公開されないままでしたが、アリーサの歌い手としての凄まじさを余すところなく伝える強烈なパワーを秘めています。
『私が殺したリー・モーガン』
人気も実力も豊富にあったジャズのトランペット奏者リー・モーガンがヘロイン中毒だったときずっと付き添っていた妻のヘレンは1972年にニューヨークのクラブで彼を射殺しました。年をとった彼女が当時のことを語るとても興味深いドキュメンタリーで、リー・モーガンの映像が少ない分最後まで見る者の注意を逃さず、非常に評判の高い作品です。
『ミカ・カウリスマキ/ママ・アフリカ ミリアム・マケバ』
「ママ・アフリカ」と呼ばれたミリアム・マケバは「パタ・パタ」というヒット曲のために 世界的に有名でしたが、1950年代から76歳で亡くなる2008年まで様々なスタイルで歌い、また活動家としても広く知られていました。彼女の波乱万丈の人生を丁寧に追ったミカ・カウリスマキ監督によるこのドキュメンタリーを見る滅多にないチャンスです。
『さらば青春の光』
ザ・フーのロック・オペラ「四十人格」を映画化したというと言い過ぎですが、その一部の曲を挿入しつつ、1960年代のロンドンとブライトンを舞台に、モッズの生き様を極めてリアルに描いた作品です。1979年当時初めて見た時、自分の青春時代が目の前に甦ってきて 、衝撃的でした。夢と挫折、セックス&ドラッグズ&R&B、すべてここにあります。
『BILLIE ビリー』
ビリー・ホリデイに関する本を書こうと長年取材を続けていた女性が亡くなった後、その取材のテープを基に作られたドキュメンタリー映画です。ビリーについて知られていなかった話も面白く、「奇妙な果実」を歌うシーンを含めてこれまで見たことがないラ イヴも必見です。
『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』
ネイティヴ・アメリカンのミュージシャンが100年前から現在まで、ブルーズ、ジャズ、ロック、ヘヴィ・メタルまで、アメリカ のポピュラー音楽の各ジャンルで果たしてきた知られざる大きな役割、そして民族として彼らが受けてきたひどい差別を描いた秀 逸なドキュメンタリー。
『ジャズ・ロフト』
日本では水俣の写真で有名なユージーン・スミスが1950年代から60年代初頭にかけて住んでいたマンハッタンのロフトには、連日様々なジャズ・ミュージシャンが出入りしていました。常に回っていたテープ・レコーダーに収められた音、そしてスミスの劇的な人生を捕らえた写真の数々は興味の尽きないものです。
『真夏の夜のジャズ 4K』
1958 年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルを撮影した伝説のコンサート映画。セローニアス・マンクからルイ・アームストロングまで音楽の多様さもさることながら、写真家バート・スターンによる美しい映像にも感激します。4Kリマスター版で久々に復帰した名作。
『MONK モンク』『モンク・イン・ヨーロッパ』
伝説のジャズ・ピアニスト、セローニアス・マンクの活動を描いた、1968年にドイツのテレビのために製作された2つの短いドキ ュメンタリー。片方は主にニューヨークを舞台に、クラブでのライヴ演奏とスタジオでの録音風景をとらえ、もう一本はヨーロッパ・ツアーを追ったものです。※2 本同時上映
『キラー・オブ・シープ』
1977年の淡々としたこの映画で、LAのワッツに住むスタンは屠場で働いています。家族をかろうじて支えながらも、気力はなく、かわいい妻のことも省みない起伏のない日常を過ごします。こんな中にも何かマシなことがあるか、スタンの心の中が時々音楽から伝わります。チャールズ・バーネットというアフリカン・アメリカンの 監督が自身の育ったゲットーの内側を描いた作品です。
『ルードボーイ:トロージャン・レコーズの物語』
60年代のロンドンにできた初のレゲェ専門レーベル「トロージャン・レコード」。ジャマイカの音楽が世界的に拡散するのにカリ ブ海からイギリスに渡った移民の存在が不可欠でした。その若者たちと彼らに憧れたイギリス人が築いたレゲェ・シーンの成り立 ちを貴重なインタヴューで伝えるドキュメンタリーです。
『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
現在はパーキンソン病のため活動できなくなったリンダ・ロンスタットのキャリアを振り返る素晴らしいドキュメンタリーです。 メクシコ生まれの父の影響を受けた幼少期、故郷のアリゾナ州でのフォークの活動からLAへ、ロック界の大スターと なった70年代、そして次々と人々の予想を裏切る多様な活動から知られざる彼 女の大物ぶりに感心してしまいます。
『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームズ・ブラウン』
ソウル・ミュージックの立役者ジェイムズ・ブラウンの人生を振り返った 2014 年の優れたドキュメンタリー。バンドの元メンバー によるインタヴューで JB に関する知られざる面白い話が色々あり、まさに芸術が爆発であることに納得する作品です。
「Peter Barakan’s Music Film Festival 2022」チラシ拡大画像
■開催情報
「Peter Barakan’s Music Film Festival 2022」
9月2日(金)〜9月15日(木)
会場:角川シネマ有楽町(ビックカメラ有楽町 8階)
主催:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム、VALERIA
配給:コピアポア・フィルム
協力:ディスク・ユニオン
公式サイト:pbmff.jp
公式Twitter:@barakansmff