古川雄輝が語る『あなたがここにいてほしい』 初挑戦の吹き替えにストイックさが滲み出る

古川雄輝が語る『あなここ』

やりながら学んだ、声優初挑戦の現場

――もともと、ご自身の“声”に対してどんな思いをお持ちでしたか?

古川雄輝(以下、古川):自分では自分の声ってあまりわからないんですけど、「いい声だね」と言ってもらえたことが何度かありました。「声の仕事はやらないの?」といろいろな人から聞かれるたびに「やったことないんです」と話していて、いつかやってみたいなと思っていた中で、今回のお話をいただけたので嬉しかったです。

――初挑戦ということで、不安も大きかったと思います。

古川:台本を見る前は勝手がわからないので、どうやって収録しているのかもわからないですし、台本がどうなっているのかもわからなくて。台本を開いたら開いたで、今度は見たことがない言葉が並んでいました。台本の上3分の1のところに線が引いてあって、そこに感情や秒数が書いてあるのを見て、「こんなふうになっているんだ」と思いました。

――レクチャーなどもなく、いきなり現場に?

古川:そうです。でも、役者もそうなので。演技経験がなくても、いきなり台本をもらって現場にポンッと入れられますから。「現場で学べ」じゃないですけど、今回もそんな感じでした。

――実際に収録してみていかがでしたか?

古川:予想通り難しかったです。特に台本を開いたときに気になったのが、息づかいのお芝居です。ふだん役者をしているときは“どこでブレスを取るか”は気にしなくていいので、それを相手の、しかも中国語のセリフを話す役者さんに合わせて吸ったり吐いたりするのが難しいなと思いながら現場に入りました。でも、実際にはそれ以上にリップに合わせる方が難しくて。画面が切り替わるまでに終わらなきゃいけないし、なおかつ自分のテンポではなくリップのテンポ感に合わせて喋らなきゃいけないので、すごく大変でした。

――監督とはどんなお話を?

古川:全体的に(収録に慣れている)声優さんのテンポ感で進んでいく中で、本当は“収録した自分の声を聞いてから、もう一度やる”という流れで進めたかったんですけど、時間の関係もあり難しくて。そんな中、イーヤオに電話するシーンを録ったときに、プロの声優さんの声の出し方が、自分とは全く違うことに気づきました。自分は(演じている役者)ご本人が話しているニュアンスを残しながら演じてみたのですが、それでは声優さんの声と噛み合っていないように感じました。プロの声優さんの発声に寄せないと、1人だけ異空間にいるような違和感があるなと思ったので、そのシーンに差し掛かったところで「1からやり直しさせてほしい」とお願いしました。

――声の出し方が、役者のときとは違うんですね。

古川:たとえば演じている役者はそんなに怒鳴っていないけど、(吹き替えでは)すごく怒鳴っている声を当てていたりして。でも、観ている分には違和感がないんですよね。だから、こういう当て方もあるんだなと、やりながら学んだというか。ここまでやっても観ている側に違和感がないので、それなら、むしろ自分ももっとやらなきゃダメだな、などと思いながらやっていました。

新しいことに挑戦しつつ、完璧を求めていく

――あらためて振り返って、声優というお仕事はいかがでしたか?

古川:ふだんプロの声優さんがやっている仕事がいかにすごいのかを実感しました。もともと尊敬していましたが、より一層、すごいなと。舞台挨拶で「よかったですよ」とおっしゃってくださったのはすごく励みになりましたし、嬉しかったです。

――声優の面白さは、どんなところに感じました?

古川:面白さなんてとても感じられないくらい大変でした(苦笑)。初挑戦だったので、どちらかというと楽しいというより、大変だったなっていう印象ですかね。

――もともと新しいことに挑戦するのはお好きですか?

古川:不得意だからとか、できなさそうだからと断るのは、性格上も仕事上も良くないと思っています。たとえばお話をいただいて「やったことないし、やめておこう」となってしまったら、プラスに働かないというか、それはネガティブな捉え方だなと思うんです。うまくいかないかもしれないけれど、結果的にやった方が良いんじゃないかなと。好きというよりも、選択肢としてそっちの方がいいんじゃないかと考えています。

――その上で、与えられた仕事はキチッキチッとこなしたい、と。

古川:せっかくいただいているお仕事なので、100%の力でやれたらいいなと思います。今回の挑戦もそうですけど、役者のときもそうですね。自分が納得いかなかったら、監督に「もう1回どうですかね?」と提案することが多いです。

――役者としての出演作を観るときにも、やはり反省することが多い?

古川:そうですね。だから、観るのは2回だけです。1回目は普通に観て、2回目は気になったところだけを観ます。納得いかないものは、あまり観たくないんです。

――思い残すことが多いと、仕事を続けるのが辛くなることもありそうです。

古川:そういうことも、あります(笑)。でも、思い残すことが多いからこそ、もし同じような仕事をまたいただけた時に、やりたいと思えるんじゃないかなって。本当は、納得のラインをもっと下げられればいいんですけどね(笑)。「良くできたな」と思えたら、気持ちは楽じゃないですか。でも、そうは思えなくて。

――納得できない人生を楽しんでいる?

古川:性格を変えられたらいいんですけど、どうしてもこうなっちゃいます(笑)。これからも新しいことに挑戦しつつ、完璧を求めてやれたらいいなと思います。

■公開情報
『あなたがここにいてほしい』
シネマート新宿・心斎橋ほかにて公開中
出演:チュー・チューシアオ、チャン・ジンイー
原作:リー・ハイボー『十年間一緒にいた彼女は。明日他人の嫁に行く』
監督:シャー・モー
プロデューサー:チェン・クォフー
制作:CKF PICTURES
主題歌:カレン・モク「empty world」
提供:リスキット/コミックリズ/チームジョイ
配給:リスキット
2021/中国映画/中国語/シネマスコープ/DCP/105分
(c)2021 CKF Pictures, Alibaba Pictures, Tencent Pictures, Netease Pictures all rights reserved.
公式サイト:http://anakoko.jp

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