朝ドラ『芋たこなんきん』の不変の“革新性” 人間愛を描き切った16年前の名作を再評価
現在放送中の『ちむどんどん』(NHK総合)で106作目を数える「連続テレビ小説」、通称「朝ドラ」。シリーズ放送年数61年、作品数100作越えともなると、もはやこれはひとつの「文化遺産」と捉えてもいいのではないだろうか。
現在、NHKでは朝ドラ旧作の「アンコール放送」を、BSプレミアム/BS4Kにて7時15分〜、そして総合で16時台〜と、2枠設けている。近年ではBS・朝の枠で『おしん』『はね駒』、総合・夕方の枠で『純ちゃんの応援歌』など、昭和の名作を改めて観た朝ドラファンによる“再発見”がなされ、極めて好評だったことが記憶に新しい。
朝ドラ好きが過去の名作の再放送を見直すことは、音楽好きがレコードやCDを「Digる(掘り当てる)」感覚に似ているのかもしれない。現代のHipHop・R&Bファンが、昔のジャズ・ソウルの音源にむしろ「革新性」を見出し、「レアグルーヴ」として再評価するようなもの、と言えないだろうか。
そんな中、現在、BS朝の枠で再放送中の『芋たこなんきん』(2006年)が熱い。16年前に制作された作品ではあるが、「伝説の名作」と称され、朝ドラファンの間で長らく再放送が熱望されていた、言うなれば、“レアグルーヴ朝ドラ”だ。
田辺聖子の私小説やエッセイを原案とし、田辺をモデルとする主人公・町子(藤山直美)が、作家として、10人家族の中で暮らす生活者として重ねる「愛おしい日常」が描かれる本作品。OAリアルタイムや放送後には、番組名ハッシュタグがTwitterのトレンドワードにたびたび上がり、毎日熱のこもった感想が寄せられている。
本放送当時47歳という、藤山直美が樹立した朝ドラ単独主演での最年長記録はいまだに破られていない。町子の夫となる医師・健次郎、通称「カモカのおっちゃん」を演じた國村隼は当時51歳。言うなれば「おばちゃんとおっちゃん」を主演に据えた、一見“シブめ”の「日常系朝ドラ」だ。しかし、ウィットに富んだ「大阪ことば」による会話劇が実に心地よく、町子と健次郎を中心とした登場人物たちが織りなす“グルーヴ”に、ぐいぐいと引き込まれてしまう。
健次郎「方針の違いを無理に合わせることないやろ。なんぼ夫婦やいうたかて、なんでもかんでも一緒やなくてもええやろ?」
町子「私が来たことで、子どもたち変わらへんかったらええねんけどね」
健次郎「そら変わることもあるで。人と人が暮らすいうんはそういうこっちゃがな。せやから面白いねや」
健次郎「人生っちゅうのは神さんからの預かりもんやな。神さんが『返せ』と言うのを忘れるぐらいに、こっちが楽しい人生、生きとかなあかんねん」
町子「生きてる時に大事な人にちゃんと言葉を残してる人は、亡くなってからもしゃべれるんやね」
徳永家の茶の間や、行きつけのおでん屋「たこ芳」で晩酌しながら、町子と健次郎がとにかくしゃべる。仕事のこと、家族のこと、子どもたちのこと(健次郎には亡き前妻との間に授かった5人の子どもがいる)。「美しいもの/こと」について、人生について。とにかくしゃべる、しゃべる。互いに自立した夫婦による「大人の愛情表現」と、芯を食った言葉の数々に痺れる。
大阪の下町・福島で写真館を営む家に生まれた町子と、奄美大島で生まれ育ち、戦後までを過ごした、根は九州男児の健次郎。文化、思想、価値観、お互い「違うもの同士」が、対話を重ねることで、だんだんとわかり合っていく。これはまさに、今の世の中にいちばん必要とされていることではないだろうか。