『空白を満たしなさい』が描く絶望と希望 柄本佑の感情むき出しの演技から目が離せない

 柄本佑が主演を務めるドラマ『空白を満たしなさい』(NHK総合)第4話では、徹生(柄本佑)の死のさらなる真相が明らかになる。

 第3話では佐伯(阿部サダヲ)から渡されたDVDに映る監視カメラの映像から、徹生は自分が会社のビルの屋上から飛び降りたのだと確信する。だが、その理由まではまだ“空白”のまま。第4話ではその謎が埋まっていく。

 死んだ日の映像を目の当たりにした徹生は「俺は、俺を殺した」と呟くが、そのセリフは理由として的を得てもいる。劇中には出てこないが、この第4話、徹生の死の理由を語る上でキーワードとなってくるのが「分人」。原作者・平野啓一郎が『空白を満たしなさい』と同年に出版した著書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』としても執筆している、極めて重要なテーマ。原作本の上下巻がなぜゴッホの自画像かにも大きく繋がっていく。

 平野は、対人関係ごとの様々な反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆくパターンとしての人格を「分人」と呼んでいる。本当の自分はあくまで一人。人はいろいろな人と接していくうちに、自然と異なる人格を生み出していく、それが「分人」であり、その集合こそが「自分」なのだと。

 徹生は佐伯の家を訪ね、無数のゴッホの自画像と対峙する。自身の耳を削ぎ落としたゴッホ、拳銃自殺をすることになる晩年のゴッホ。どれもタッチは大きく異なるが全て本物のゴッホ自身。佐伯は「自分の耳を削ぎ落とした危険で哀れで病んだゴッホを、健康的で生きる力のあるゴッホたちが殺すんです」と徹生に説く。そこにあるのは「生きたい」という人の根源とも言える思い。佐伯も、そして徹生もゴッホと同じだった。

 自分を擦り減らして生き続けた徹生は限界を迎えていた。家族の前と、会社の同僚と、一人でいる時の徹生。佐伯から投げかけられる社会への怒りを拒みながらも、心の奥では共感を覚える徹生がいた。佐伯が囁きかけてくる幻聴、さらに徹生を追い込んだのは自分が作り出した璃久の幻影。両手を握り、自分を自分で必死に抑え込む徹生に芽生えていた感情は「生きたい」だった。

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