吉田恵輔監督の作劇の本質は“照れ隠し”? 岸井ゆきのと『神は見返りを求める』裏側を語る
吉田恵輔監督最新作『神は見返りを求める』が6月24日より公開中だ。イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)が、一切見返りを求めることなく、まるで「神」のように、底辺YouTuberゆりちゃん(岸井ゆきの)のチャンネルを手伝うことに。2人が絆を深めていくほっこりラブストーリー……を期待すると大いに裏切られる波乱の本作。その撮影秘話、YouTubeを大胆に取り込んだ手法から見えてくる映画のあり方などについて、監督の吉田恵輔、出演の岸井ゆきのに話を聞いた。
岸井ゆきの「吉田監督は本当のことしか言わない」
ーー岸井ゆきのさんの振り幅の大きいあらゆる表情が見られる作品でした。吉田監督は岸井さんの演技をどのように感じていましたか?
吉田恵輔(以下、吉田):初めて会ったのが2014年に公開された映画『銀の匙 Silver Spoon』のときで、その時からずば抜けた才能の持ち主だと感じていました。メインとして向き合う形でやりたいとはずっと思っていたんですが、8年という間に、ゆきのはあまりに沢山の経験を積んでいて。だから、「俺が思っていた宝石が、めちゃくちゃ磨きがかかってんなあ、うん、すごい!」って、ただ眺めていました(笑)。自覚しているかはわからないけど、表情ひとつとっても引き出しをいっぱい持っている。しかも、あまり考えずにその場で必要な引き出しが勝手に開いていくような感じで。それを一番近くで見ているお客さんのように楽しんでいました。
岸井ゆきの(以下、岸井):吉田監督はカットがかかるたびに「今のいいよー!」って言ってくれるんです。監督にそんなこと言われたら、逆に「え、ちゃんと見てくれてました……?」って思うときもあるのですが(笑)、吉田監督は本当のことしか言わないのでその言葉を信じていました。一番近い観客になってくれる感じです。だから、吉田監督に向けて演じていましたね。
吉田:楽しかったんだよな。
岸井:本当に楽しかったです! 毎日笑っていたんですけど、なんで笑ってたのかわからないんです(笑)。
ーー現場、役柄によっては、「楽しい」だけではないこともありますよね。
岸井:(この作品の現場は)映画作りとは関係ない部分での笑いがとても多かったんですよね。
吉田:俺がずっとおしゃべりしているからね。役者のみんなが役作りをいくらしてても、それこそ泣く準備をしていても、俺がしょうもない話をしに行って、「じゃあ本番よろしくね!」って。いつも邪魔していた(笑)。
岸井:本当に邪魔してくるんです! どんなシーンでも吉田監督は同じテンションですよね(笑)。
吉田:終盤、ゆりちゃんが(痛々しい)特殊メイクをしていたシーンでも、「かわいい!」って(笑)。
岸井:「今までで一番かわいい」って仰ってましたね。ゆりちゃんが田母神さんに謝りに行くシリアスなシーンがあるのですが、その撮影の前も吉田さんが直前まで全然関係ない話をされていて。1回目は、吉田監督が笑わせてくるのでうまくできなくて、でも、吉田監督は「ゆきの、できるよ!」って仰ってくれていました。
吉田:俺ね、深刻なときに深刻になれないんだよね。あと、なるべく感情を持たないように見たいの。あんまり興味がない人の気持ちになって見たい。深刻なシーンの撮影前でも、直前まで携帯ゲームとかしてるんですよ。娘の発表会みたいに「全部最高じゃん!」ってなっちゃうと、危ういというか。お客さんよりちょっと冷めた目線くらいで見ないといけない。そうじゃないと気づいたら喜んでるのが俺だけって状況になりかねないから。なるべくフラットになれるように心がけているんです。
ーー本作も含めて吉田監督の作品はキャラクターが容赦なく追い込まれていくので、見ていて辛くなっていく部分がありました。その秘訣はこんなところにあったんですね。
吉田:キャラクターに寄り添ったら、まず俺のメンタルが先にやられてしまうんですよ(笑)。だから、脚本を書いてる時は、1人作業で、気持ちがどんどん落ち込んでいくんです。現場は色んな人がいて、お祭りみたいだから楽ですけど。『神は見返りを求める』を書いてるときはそんなに苦しくなかったけどね。
ーー切なかったり悲しかったりするシーンの合間に、笑える瞬間がスッと入ってくるのも吉田作品の特徴だと感じています。
吉田:基本的には、“照れ隠し”ですね。例えば、好きな子に告白するときにちょっとふざけたくなっちゃう。フラれない自信があっても、お互い両思いで待ってるだけだってわかっていても、真面目に言うのが恥ずかしくてちょっとふざけたりとか。真剣な話をしているときに、「♪バーニラ、バニラ」(某求人のテーマソングを口ずさむ)ってきてほしいんですよ(笑)。
岸井:(笑)。
吉田:外から見たらこの状況は“滑稽だよね”ってことにしないと恥ずかしい。逆に、告白してるときにいい音楽が流れてしまうと、「ああー! 違う違う!」っていう気持ちになっちゃうから。脚本を書いてる時は、自分の本心が透けて見えてきてしまうので、その思いを正面から見ることができなくて、照れ隠し的にコメディ的な部分を入れているのかもしれないです。