『トップガン マーヴェリック』の“続編映画”としてのアプローチ 前作との違いを比較考察
この最高の作品の続編を撮ることができるとすれば、やはりトニー・スコット監督ただ一人だったのではないか。だからこそ、筆者のような熱狂的なファンは、突然のトニー・スコット監督の訃報を聞いたときに、続編の“死”をも意味していたと感じることとなったのである。その後、本作の監督に『トロン:レガシー』(2010年)、『オブリビオン』(2013年)のジョセフ・コシンスキーに決定したと聞いたときには、やはり否定的にならざるを得なかった。なぜなら、これまでの2作で感じたコシンスキーの作風は、より繊細で現代的なものであり、むしろリドリー・スコット監督のそれを想起させるものだったのだ。しかし、そんな筆者にとって思いもよらないことが起きる。その後公開されたジョセフ・コシンスキー監督の長編第3作『オンリー・ザ・ブレイブ』(2017年)が、傑出した出来だったのである。
実際の事柄を基に、山火事に対処する町の消防士たちの奮闘と生活を描いた『オンリー・ザ・ブレイブ』は、平凡な男たちがヒーローとして献身的な活躍を見せる、まさに“アメリカ魂”の主題を見事に描ききっただけでなく、ジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』にある美学的な“詩情”を感じさせるシーンがあるなど、素晴らしいとしか言いようのない内容だった。これならば、『トップガン』の続編に対して、十分期待してよいはずだと感じたのだ。
果たして、本作『トップガン マーヴェリック』は、往年のファンにも十分満足できる内容となっていた。トム・クルーズ演じるマーヴェリックの、変わらぬ反逆的な挑戦心、かつてのライバル、アイスマンとのブロマンス的な関係、カワサキのバイクでの疾走、夕陽のビーチを駆け回る若者たち、バーでの歌唱シーンと微笑ましい恋愛描写、期待通りの熾烈な空中戦と誘導ミサイルを撹乱するフレアが撒き散らされる美しさ、そして『オンリー・ザ・ブレイブ』の出演者でもあるマイルズ・テラー演じる訓練生が引き起こす、マーヴェリックの過去との葛藤など、サービス過多とすらいえるほど、見どころを押さえている。
それでいて、各シーンが表面的なものにならず、前作同様の深い味わいを感じられるものになっていたのは、さすが『オンリー・ザ・ブレイブ』でアメリカの市井の人々を詩情豊かに描ききったコシンスキーの手腕というところだろう。そして、トム・クルーズをはじめとする、前作とつながるキャストが醸し出す説得力が、そこに寄与していることは言うまでもない。
また、今回音楽を担当した巨匠ハンス・ジマーは、前作を手がけたわけではないものの、トニー・スコット監督のもう一つの代表作『クリムゾン・タイド』でグラミー賞を受賞していることから、彼以上の選択はあり得なかったはずである。80年代のポップソングからの影響が色濃いレディー・ガガが主題歌を担当し、劇中曲にも、やはり80年代のポップロックに代表されるシンセサウンドをとり入れているバンド「ワン・リパブリック」が選ばれているのも、狙いが分かりやすい。話題性で音楽を選ぶのでなく、また当時の曲を流し続けるわけでもなく、現在のミュージシャンの内実を理解しながら的確に利用することで、当時のテイストに近づけているのだ。
一方で全く変わった部分もある。1980、90年代のトニー・スコット監督作では、映画のなかで描かれる“仮想敵”を、ソビエト連邦やロシアに定めていた。しかし本作では、国際的な反発を避けるため、架空の国を登場させている。皮肉なのは、映画公開に近い時期に、現実の世界で本物のロシア軍がウクライナに侵攻してしまったという事実である。防衛上の脅威に対し、マーヴェリックは教官として再々度、アメリカ最高の航空戦訓練校「トップガン」に戻り、ほぼ“不可能”な作戦を立案し、後進の指導にあたることとなる。その内容はむしろ、『ミッション:インポッシブル』シリーズを想起させられるところだ。脚本には、現在シリーズの脚本と監督をも手がけるクリストファー・マッカリーが参加している。
とはいえ、ほとんどの面において前作の持つ数々の魅力を、明確な意図を持って様々な方法で現代にまた再現してみせた本作……一方で、これを不自然だとする見方もあるだろう。なぜなら、トニー・スコット監督は80年代当時、もちろん「80年代的な作品を撮ろう」と思っていたわけではなく、いま手に入る最高のものを素直にとり入れていただけなのである。その意味で、もしトニー・スコット監督が本作を撮っていたならば、少なくとも作品のテイストは、より現代的でナチュラルなものになっていただろう。
そこまでのアプローチを、映画史に輝く象徴的な作品の続編を任された、後進であるコシンスキー監督に求めるのは酷なことだというのも理解できる。これは、『スター・ウォーズ』がそうだったように、現代のクリエイターがある程度宿命づけられている点でもある。しかし、そのあり得ただろう“微妙な違い”こそが重要なのである。『トップガン』が、本作でトム・クルーズが見せた、リミットを超えたスピードで突っ走る機体に例えるならば、本作はリスクを考えてスピードをセーブしてしまった印象がある。その判断が、おそらく本作を『トップガン』のような“伝説の作品”に到達させない理由となるはずなのである。
そうはいっても、本作が現在の材料を使いながら、見事に『トップガン』スタイルをものにしたことは事実であり、この成功は映画界を中心にした多くのクリエイターにとって、往年の作品の続編を撮る参考になったことは間違いないはずだ。しかし、コシンスキー監督にとって、そして観客にとって、“伝説の作品”になる可能性があるのは、『オンリー・ザ・ブレイブ』の方であり、もしくはこれから手がけていく作品の方であることは明らかだ。
■公開情報
『トップガン マーヴェリック』
全国公開中
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:クリストファー・マッカリーほか
製作:ジェリー・ブラッカイマー、トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー、デヴィッド・エリソン
出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、ヴァル・キルマーほか
配給:東和ピクチャーズ
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