女性版『プロゴルファー猿』と侮ることなかれ! ゴルフアニメ『BIRDIE WING』がすごい

 今年はワールドカップイヤーのためかサッカーアニメの新作が立て続けに生まれ、また近年に目を向けると野球アニメも人気は根強い。しかしそれらのスポーツより国内の競技人口が多く、さらにオリンピックの正式種目でありながらアニメとやや縁遠いスポーツがある。その代表的な例が水泳とゴルフだ。

 水泳に関しては、寡作ではあるものの多数のアニメファンが2013年から展開している『Free!』シリーズを思い浮かべるだろう。しかしゴルフアニメと言うと1980年代の『プロゴルファー猿』まで遡る人も多いのでは。それもそのはず、そのほかに目立った作品は同時期に展開された『あした天気になあれ』や2000年代の『DAN DOH!!』くらい。しかしそんな不遇気味なゴルフアニメ界に、現在進行系で打ち立てられている金字塔が今回取り上げる『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』(以下『BIRDIE WING』)だ。

 『BIRDIE WING』は賭けゴルフで稼ぎながら生活するイヴと、大企業の令嬢である天鷲葵というふたりのゴルファーが互いに惹かれ、ぶつかり合っていくオリジナルの女子ゴルフアニメ。公式サイトなどでは「世界初、女子ゴルフをテーマとしたオリジナルアニメシリーズ」という文言があるが、昨年末に女子ゴルフアニメ『空色ユーティリティ』が放送されたものの、そちらは1話15分のみだったため「世界初の(女子ゴルフ)アニメシリーズ」という看板に偽りはない。

 本作の魅力はいくつかあるが、まず挙げたいのは真っ当な熱血スポーツアニメであること。本作のシリーズ構成を務めるのは『機動戦士ガンダム00』『僕のヒーローアカデミア』で知られる黒田洋介。とは言え本作に関連して触れるなら“『スクライド』の黒田洋介”と記載したほうがいいかもしれない。まだ物語は序盤ながら、イヴが「直撃のブルー・バレット」などと叫びながらさまざまな必殺技を駆使してホールを回り、その絶対的なライバルとして葵が君臨し続けるさまは、『スクライド』のカズマの熱さと劉鳳との関係性を彷彿とさせるレベル。ふたりが運命の出会い、ライバル関係が始まったところで、現在動画配信サービスなどで再ブレイクしている、あの広瀬香美が歌う鮮烈なオープニングテーマ「Venus Line」が入ってくる第1話ラストの心地よさは春クールのハイライトのひとつと言っても過言ではないだろう。

 とはいえ、シリアス一辺倒ではなく抜けたところも多いのが本作の見やすさにつながっている。バンダイナムコピクチャーズ作品らしく、ふいにガンプラやパックマンが登場するといった辺りは朝飯前。ハーモニー処理や入射光が多い映像は『プロゴルファー猿』へのリスペクトを感じさせ、かと思えば『あした天気になあれ』内のショット時の掛け声「チャー・シュー・メン」をオマージュしてかちょい役のおじさんに「ホイ・コー・ロー」と言わせるなど過去のゴルフアニメへのアプローチも忘れない。

 そんな美味しい要素満載の本作を監督としてまとめるのは、絵コンテも全話手がける(※少なくとも5話時点までは)稲垣隆行。10年ほど前の『ジュエルペット サンシャイン』でギャグアニメの名手であることが世に知られ、その後も『俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している』や『聖剣使いの禁呪詠唱』『空戦魔導士候補生の教官』などでおかしみを滲ませて熱狂的なファンを生み出している鬼才の手腕は本作でも健在。大仰な仕掛けで変形するゴルフコースや、ゴルフアニメに似つかわしくないロケットランチャーの登場などツッコミどころは盛りだくさん。ライバル関係となった主人公ふたりの切ないドラマと、トンデモゴルフ要素が結びついた第4話のクライマックスは、泣けばいいのか笑えばいいのか……戸惑いながら震える人も多くいそうな名シーンだ。

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