『ちむどんどん』上白石萌歌が秘めるたくましさ 姉・萌音とは対照的な“陽”の魅力を発揮
例えるなら、萌音は暗闇の中で燃えたぎる炎だ。『カムカム』で戦争による肉親や愛する人の死、兄の逃亡、戦後の貧しさの中を共に生きた娘との決別など、安子に次々と迫り来る悲劇を全身で受け止めた萌音。ほんわかとした雰囲気を持ちながらも、後ろには一歩も引かない激しさを内に秘めている彼女の芝居は私たちの胸をかきむしる。時に、役へ取り憑かれたのかと思うほど凄まじいオーラを放つ彼女から目をそらしたくなる瞬間すらあるのだ。何が何でも我が子を守り抜かんとする母ライオンのような強さ、激しさ、そして優しさ。そのすべてが萌音演じる安子が娘のために子守唄として歌った「On the sunny side of the street」にも集約されていた。
一方、萌歌は広大な丘に立った一本樹のような強さを持つ。彼女が『ちむどんどん』で演じるのは、沖縄のやんばる地域で育った四兄妹の三女・歌子。本当は歌うことが大好きな女の子だが、幼い頃から病気がちで引っ込み思案。初恋の相手は、自分とは正反対に活発で明るい姉に夢中……という一見不遇な設定だが、萌歌は決して深刻なオーラを前面に出さない。むしろ鋭く冷静な一言でその場を凍りつかせたり、音楽教師の響子(片桐はいり)からちょこまかと逃げ回ったり、歌子の「実はだれより頑固で逞しいのでは?」と思わせるところが強調されている。萌歌が劇中で披露した「翼をください」は弱い自分から脱したいという歌子の心の叫びでもあった。だがすでに、地に根を張ったまま、気持ち良さげに風に吹かれる樹のように、どんな哀しみや苦しみが襲いかかっても跳ね返してしまう“軽やかな力強さ”を萌歌が演じる歌子には感じるのだ。
ヒロインはあくまでも暢子だが、ほかの兄妹たちにも毎回スポットが当たる『ちむどんどん』。家族の沖縄本土復帰から“50年”の歩みが描かれていくとのことで、年齢を重ねていく彼らの成長も見どころの一つだ。姉・萌音に続き、これから1人の少女の長い人生を歩む妹・萌歌に注目したい。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK