城定秀夫作品にハズれなし 青春も性春も、あらゆる題材を手際よく料理する手腕

城定秀夫、あらゆる題材を料理する手腕

論理と倫理と虚構で描く『女子高生に殺されたい』

 『女子高生に殺されたい』は題名からして、倫理的な正しさとは無縁の物語に見えるが、こちらは『愛なのに』以上に、論理と倫理と虚構を合致させた作りになっている。〈女子高生に殺されたい〉と願う性癖を発症していく過程を徐々に明らかにし、観客も共にその願望に行き着くように仕立てた緻密な構成が魅せる。最初はドン引きして観ていたはずが、いつしか、その計画通りにコトが進むよう願うまでになってしまう。江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』等の変態的な初期短編を読んでいたときと同じような背徳的な気分になるのだ。

『愛なのに』(c)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ

 では、女子高生の側は、そうした男の身勝手な願望につきあわされるだけなのかと言えば、クライマックスでは〈女子高生vsおじさん〉の頂上決戦へと至り、溜飲を下げる。その中で重要な役割りを果たすのが、ヒロインの友人を怪演し、特殊能力を有する(!)河合優実だが、彼女は『愛なのに』で柔らかな眼差しと共に見せる忘れがたい演技で、古書店主に恋する女子高生を演じていた。この2本は、河合優実によって接続された「女子高生とおじさん二部作」でもあるのだ。彼女には城定映画のミューズとして、これからも登場して欲しいと願わずにいられない。

『愛なのに』(c)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ

 ここで城定映画のキャスティングについて付け加えておくと、これから飛躍しそうな俳優たちが次々に顔を見せるのも見どころで、河合以外で言えば、『いとみち』『偶然と想像』などで昨年頭角を現した中島歩が、『愛なのに』ではなんとも萎びた男を絶妙な演技で見せてくれる。『偶然と想像』の中島が気になったなら、本作ではいっそう魅力的に映るに違いない。また、『女子高生に殺されたい』では、河合以外には莉子が際立つ。今は森七菜によく似た風貌と見られがちだが、演技面で突出するものがあり、今後を期待させる。

 城定映画の新作情報としては、7月に山本直樹原作の『ビリーバーズ』が公開される。さらなる新作も続々と控えているようで、城定秀夫の世界はいよいよ拡大していくことになりそうだ。

■公開情報
『女子高生に殺されたい』
公開中
出演:田中圭、南沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太、加藤菜津、久保乃々花、キンタカオ、大島優子
監督・脚本:城定秀夫
原作:古屋兎丸『女子高生に殺されたい』(新潮社バンチコミックス)
企画・プロデュース:谷戸豊
音楽:世武裕子
企画・配給:日活
(c)2022日活
公式サイト: http://joshikoro.com/
公式Twitter: https://twitter.com/joshikoro_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/joshikoro_movie/

『愛なのに』
全国順次公開中
出演:瀬戸康史、さとうほなみ、河合優実、中島歩、向里祐香、丈太郎、毎熊克哉、オセロ(猫)
監督:城定秀夫
脚本:今泉力哉、城定秀夫
主題歌:みらん「低い飛行機」(作詞・作曲:みらん/プロデューサー:曽我部恵一)felicity・P-VINE
製作:2021『愛なのに』フィルムパートナーズ
製作幹事:東映ビデオ
制作プロダクション:レオーネ
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(c)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ
公式サイト:https://lr15-movie.com

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