『TITANE/チタン』が描く、オイル塗れで強烈な“既視感” 数奇で超越的な愛を目撃する

『TITANE/チタン』強烈な既視感と愛

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、好きな車はインパラなアナイスが『TITANE/チタン』をプッシュします。

『TITANE/チタン』

 映画を観終わると、なんとも泣きたい気分になった。「私、なんてものを観ちゃったんだろう」なんて、熱い目尻を押さえて、真っ白いエンドクレジットに目が追いつかないものだから瞼を閉じる。『TITANE/チタン』は間違いなく、視覚的にかなり情報の多い作品だ。それは登場人物を象徴し、ときに心情を捉える映像のカラーリングから、激しいセックスシーンと照明の点滅、炎、裸体、オイル、金属、多岐にわたる。しかし、最も強烈で眩しかったのは誰にも愛されず、愛せなかった主人公と、愛する者をかつて失い、愛の対象を渇望していた男の間で生まれた「愛」である。

 主人公のアレクシア(アガト・ルセル)は、車や機械に以上な執着心を抱いていた。物語は彼女が幼いころ、父親と二人で乗っていた車が交通事故を起こし、頭蓋骨を損傷した彼女がチタンプレートを頭に埋めこまれて退院するところから始まる。母親に手を繋がれて病院から出てきたアレクシアは、容易にその手を離し、自分の家の車に駆け寄ってその車体を撫で、キスをする。交通事故の原因は、こうだ。アレクシアが車のエンジン音の変化を「ブーン、ブーン」と口で表現していたのにイラついた父親が、その声をかき消すくらい車内の音楽の音量をあげたのである。すると、それに対してイラついた彼女が、後部座席から父の座るシートを蹴り続け、シートベルトを外してトランクの方に体を向けようとして、それを注意して父が後ろを向いて……という具合である。車体の後ろに向かった、ということはリアエンジン、またはミッドエンジンの車だったのだろう。この一連のオープニングで理解できることは、彼女は事故の前から車が好きで、両親をはじめとする人間に注意や愛を抱いてなかったことだ。

  そんなアレクシアが大人になった姿が映されるシークエンス。ダンサーである彼女が車体の上でセクシーに踊り、仕事をする姿は周囲の男や女が彼女に抱く幻想そのものである。私たちは、その容姿や所作から相手に興味を持たれる(思想に興味を持たれるのは3回目のランチデート以降だと思った方がいい)。相手の抱くその興味は、ときに対象に対して “自分が望む姿” という幻想を生み出してしまう。だから、興味を持たれた側からしたら「あなたが見ている“私”は私ではない」と、その差異にひどく苛立ち、嫌悪する場合があるのだ。このアレクシアもそうである。他人に向けられる愛、欲望の対象となる“私”と私の乖離。おそらく生まれてからずっと、そのギャップが埋まることのなかった彼女は、「違う」という相手に我慢ならず、髪留めの櫛で脳をぶっ差して殺してしまう。彼女の殺人シーンはとても印象的でメタフォリカルだ。

 (映画の中で描かれる)最初の被害者となった彼女のファンの男は、暗闇の中をつけ回し、最終的に一方的な告白をして無理矢理キスをする。その彼を殺したアレクシアは、痙攣した際に出た男の唾液が体中についていることに気づき、嫌悪し、シャワールームで身体を強く擦って洗う。しかし、その後の性行為シーンに通じることだが、何より印象深いのは彼女も少しは“トライしてみる”ことである。彼女は向けられた好意に対し、自分も相手に同じ気持ちが抱けるか試しているのだ。彼女は常に、セックスをはじめとする肉体的接触を通して「ありのままの自分を愛してくれる相手」、「ありのままの自分で愛することができる相手」を探している。第二の被害者となった女性(『RAW〜少女のめざめ〜』の主演女優が演じている)との接触もそうである。しかし、アレクシアが女のピアスをした乳首を愛撫していたシーンで、やはり人間の肌よりもピアスという金属に興味があるように思えて仕方なかった。

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