『キム秘書』からの見事なアップデート 韓国ドラマ『社内お見合い』人気の秘密

『キム秘書』から進化した『社内お見合い』

役者としての「花道」を拓くキム・セジョン

 アン・ヒョソプもキム・セジョンも本格的なロマコメは初挑戦になるが、今作を機に日本での知名度や人気はグッと上がるはず。特に、社員であることを隠すため、劇中ドラマ『がんばれ!クムヒ』の主人公と同名のシン・クムヒと偽り、一人二役のような形になるハリをキム・セジョンは生き生きと演じている。テムにも、彼の祖父で財閥会長のカン・ダグ(イ・ドックァ)にも正体がバレないように悪戦苦闘する様は、表情もフィジカルもコミカルで、言動が愛らしく大げさなクムヒと仕事に真摯に打ち込むハリを見事に演じ分ける。

 また、キム・セジョンといえばオーディション番組『K-POPスター2』を経て『PRODUCE 101』シーズン1から「I.O.I」としてデビュー、「gugudan」のメンバーとしても活躍した後、『愛の不時着』や自身も出演した『悪霊狩猟団:カウンターズ』のOSTに参加するなどソロアーティストとしても成功を収めてきた。K-POPファンならば一度は耳にしたことのある「花道だけを歩こう」(これからはいいことだけが起こりますように)という希望の言葉のきっかけになった人物でもある。『PRODUCE 101』の最初の順位発表式で1位になった際、母親に向けて語った言葉が元になっており、デビュー後にはラッパー・ZICOとのコラボで「花道」という楽曲も発表した。苦境にめげず、失敗しながらも何度でも立ち上がり、天賦の才能を生かした仕事が大好きでたまらない、というシン・ハリの姿は彼女そのものにも見えてくる。

財閥会長なのに怖くない!? ステレオタイプを打ち壊す

 そして、今作では、財閥グループのひとり娘ヨンソと町のチキン店の娘ハリが“親友同士”という点が興味深い。お見合いを台無しにして祝杯を上げる2人がカラオケで歌うのは、「少女時代」の「Into the New World(タシ マンナン セゲ)」。彼女たちが共に過ごした大学時代は、もしかしたらこの曲が象徴となった梨花女子大学の抗議デモ(2016年 ※3)と重なっていたかもしれず、社会階層を越えた連帯とプロテストを垣間見ることができる。親友同士、2人で大いに酔っ払って本音が飛び出すというシーンは、『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』や『酒飲みの都会の女たち』、最近の『39歳』にも重なる。

 それに、本編とリンクするかのような財閥企業を舞台にした劇中ドラマ『がんばれ!クムヒ』が大好きな、どこまでも大らかで朗らかなテムの祖父にも注目。頑固で厳格、癒着と汚職まみれといった財閥会長のイメージを大きく裏切ってくれる(今のところ)。

 そして、シットコム『生意気なヨンエさん』にて、『82年生まれ、キム・ジヨン』とはまた違ったベクトルから日常に転がっている性や容姿、年齢に対するバイアスに釘を刺してきたヨンエさんことキム・ヒョンスクが、ハリの上司の女性部長を小気味よく演じている。「性差別はやめて」と、ハッキリと口にしてくれる彼女の存在も頼もしいのだ。

参考

※1.https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2188843
※2. https://www.instagram.com/p/CbPqTvmpM6l/
※3. https://realsound.jp/2018/09/post-252068.html
・金成玟『K-POP新感覚のメディア』P124-125より

■配信情報
『社内お見合い』
Netflixにて独占配信中(全12話・毎週月曜日と火曜日に新エピソード配信)
演出:パク・ソンホ
脚本:ハン・ソリ、ホン・ボヒ
出演:アン・ヒョソプ、キム・セジョン、キム・ミンギュ、ソル・イナ、イ・ドックァ、キム・ヒョンスク、イム・ギホン、ユン・サンジョンほか

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