『ガンパウダー・ミルクシェイク』アクション映画大好き人間の遊び心とハードボイルド魂

怪作映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』

 ネオンきらめくクライム・シティ(※公式名称です。私が勝手につけたんじゃありません)では、今日も悪党どもがシノギを削り合う。この街で生きる殺し屋のサム(カレン・ギラン)は、不幸な偶然から誘拐事件に巻き込まれ、身寄りのない少女エミリー(クロエ・コールマン)を匿うことになった。しかし、この件が原因で組織から放逐されることに。「エミリーを見捨ててしまえば全て解決する」。頭ではわかっていたが、サムという女はそれができない女だった。バスいっぱいの追手が迫りくる中、頼れるものは銃と腕っぷし、そして古い仲間のみ。サムはエミリーを連れて、昔なじみの武闘派女性集団とクライム・シティで悪党どもを銃で撃ちまくるのだった。

 本作『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、単純明快なプロットをバチバチの格闘アクション、遊び心あふれる演出、そして徹頭徹尾のハードボイルド魂で飾り立てた快作だ。本作で目を見くのは、まずは謎の世界観だろう。ネオンが輝く1980年代のような街並みに、90年代のミニシアター系のアクション映画のような間の抜けたノリ、そしてなぜか2000年代的なガラケーがキーアイテムとして登場し、古今東西の様々な銃火器類が登場する。登場人物のファッションもそうだが、この特異なビジュアルだけでも好きな方にはたまらないだろう。裏世界の謎ルールや気合の入った格闘シーンは『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年〜)を思い出すが、このファンタジー感は『シン・シティ』(2005年)にも近い。あとタランティーノの映画や、『処刑人』(1999年)を思い出す人もいるだろう。

 そしてキャッチーなビジュアルの中で、数々の名作アクション映画へのオマージュが炸裂。いわゆる“元ネタ探し”を始めると、色々と挙がり過ぎてキリがないが……何はなくともジョン・ウーへの熱すぎる思いは特筆に値するだろう。ジョン・ウーといえば香港アクション映画の脂が乗りきっていた時代、すなわち80~90年代に“ヴァイオレンスの詩人”なる肩書を持って、スローモーションと二丁拳銃、そして白い鳩で一世を風靡した人物だ。本作はそんなウーからの影響がものすごく強い。令和の世にここまで全開でジョン・ウー映画をやるとは、なかなかの蛮勇である。

 遠路はるばる死にに来ているとしか思えないモブ・ギャング大集団は『男たちの挽歌II』(1987年)だろうし、超カッコいい装飾が施された二丁拳銃や、銃撃戦中に「少女に怖い思いをさせないように」とヘッドホンをつけてあげるシーンなんて、言い逃れができないほど『フェイス/オフ』(1997年)である。ちなみに本作の監督を務めたナボット・パプシャドは、タランティーノとも親交があり、タランティーノもまたジョン・ウー信者で有名だ(とある映画ライターさんの本に「タランティーノと会ったら『男たちの挽歌』の話になって、同作のテーマ曲を鼻歌で合唱した」と書いてあったのが忘れられない。非常にイイ話である)。こうもジョン・ウー魂を包み隠さず描かれてしまうと、「あんたも好きねぇ」と往年のカトちゃんばりにニヤつくしかないだろう。

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