『恋せぬふたり』ライフイベント=こなすべきタスク? 高橋一生からの心強いメッセージ
変化するということは、ある意味で「解放」されるということなのかもしれない。自分の中で、「こうすべき」と知らずしらずのうちに自分を縛っていることも。それは、自分で選んでいたつもりが、これまでの環境に影響されていただけ、と気付かされる場面もある。
例えば、咲子がみのりから八つ当たりされたときも、咲子は何も言い返さなかった。それは、もしかしたら長年あの家族の中で“いつもニコニコとしている姉”のポジションが染み付いていたからかもしれない。「愛想がいいのが取り柄」と思っていたのは、そうあろうとしていただけの可能性もある。
みのりの出産を聞きつけて病院で両親と再会したときに、複雑な表情で「うん」とだけ返したのは、咲子の新たな顔=選択のようにも見えた。羽という、本当に自分にとって居心地の“いい家族(仮)”を得て、やっと自分の意志が出せたのではないだろうか。
そういう意味では、これまで咲子らを教え導くような立場にいた羽だって、まだまだ自分の居場所を探している最中。咲子に合わせて年越しそばを夕飯にも食べたように、そして再び邪道ピザをオーダーしたように、これまでの自分を頑なに変えない、というわけではない。
そんな中で持ち上がったのが「子どもを持つ持たない」という新たな選択肢だ。人との身体的な接触を嫌悪する羽だが、子どもをかわいく感じる気持ちや人と暮らしたいという想いがないわけではない。
もしかしたら、みのりと夫の口論を子どものように怯えた眼差しで「やめてください」と遮ったのも、彼が祖母のもとで育ったという生い立ちに繋がっているのかもしれない。そしてどうやら過去にも、ある女性と子どもとの話題がのぼっていた様子も。これまで温かな陽の光が降り注いてきた高橋家は、彼の心を表すように陰りを見せる。果たして、新しい選択肢を前に、羽はどう自分を見つめ直すのだろうか。
これまで、このドラマではアロマンティック・アセクシュアルというセクシュアルマイノリティにカテゴライズをされたとしても、決してそこにいる1人ひとりが同じではないことが繰り返し伝えられてきた。それは、どんなカテゴリーに属している人にも通じることでもある。
女だから、男だから、恋愛するしない、結婚するしない、子どもを持つ持たない……そうした分類でまとめて物事を語る風潮に、もう少しだけ丁寧に見つめていこうと。またライフイベントはこなすべきタスクではなく、その人が自分で選択していく道なのだと。次回放送まで、また1週間があく。私たち自身がこれまでの選択は本当に心地いいものなのか、そしてこれからの選択は心に沿ってできるだろうかと、じっくり考える時間にあてていこうではないか。
■放送情報
よるドラ『恋せぬふたり』(全8回)
NHK総合にて放送
第7話:3月14日(月)22:45~23:15
第8話:3月21日(月)22:45~23:15
出演:岸井ゆきの、高橋一生、濱正悟、小島藤子、菊池亜希子、北香那、アベラヒデノブ、西田尚美、小市慢太郎
作:吉田恵里香
音楽:阿部海太郎
主題歌:CHAI「まるごと」
アロマンティック・アセクシュアル考証:中村健、三宅大二郎、今徳はる香
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:大橋守、上田明子
演出:野口雄大、押田友太、土井祥平
写真提供=NHK