『恋せぬふたり』が示した、笑顔でかわすだけではない選択肢 結論を急かされる現実社会で

『恋せぬふたり』生きづらさを軽減するヒント

「ドラマの中で性的接触の描写があります。あらかじめご留意ください」

 そう注意書きから始まるところに、このドラマの優しさを感じた。よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)の第3話。もしかしたら観た人の中には、「この注意書きが必要なほどの描写があっただろうか?」と疑問に思った人、「そんなに気になるほど?」と驚いた人もいたかもしれない。しかし、そんな「それほど?」と思うものを不快だと思う人もいるということ。そう知るところから始まるのが、このドラマのある意味なのだと気付かされる。

 優しさとは、誰かに何かを施すことよりも、まずは誰かの不快に敏感になることなのかもしれない。もちろん、すべてのドラマにこの注意書きをしなければならないなんてことはないと思う。0か100か、白か黒か、ではないグラデーションの中で私たちは生きているのだから。

 ただ、その感覚を持った人が観るであろうという想像ができるのであれば、できる限り配慮をしたい。そんな制作側の「たしなみ」のひとつということなのだろう。好きなお店のポイントがたまったらおざなりにせず、時期を見て満を持してポイントを使用し、またお店が元気に営業してもらえたらと願うように……。

 第3話では、咲子(岸井ゆきの)が改めてアロマンティック・アセクシュアルな自分と向き合っていく様子が丁寧に描かれた。長年ぼんやりと感じてきた違和感を整理するきっかけを、羽(高橋一生)が綴るブログからもらったものの、過去を噛み砕いて消化するためにはまだまだ時間がかかりそうだった。そんな咲子の自分語りを急かすことなく、じっくりと聞いていく羽。

 前回の家族へのカミングアウトから「もう一歩踏み込んで家族になること」を考えていこうと合致したことで、咲子は「私たちってまだ家族(仮)のままなんでしょうか? いろいろ話したからもうほぼ家族なのかと」と問いかける。だが、羽は「ほぼ家族と家族は違いますよ。ほぼカニとカニが違うのと同じように」と結論を急がない姿勢を見せる。そして、これだけ慎重になる理由として「自分で決めていないことを、無理やり決められるのが苦手なだけです」と添えたのだった。

 そんなやりとりに、またひとつ気付かされるのだ。現実社会において、どれだけ結論を急かされる場面が多いことか。自分で心から納得して決めた状態になっていないうちに、自分の意見として決められたことはないだろうか。特に咲子のように愛嬌の良さから「(たぶん)オールOK」なのだと認識されてしまう場面は少なくない。そして、いざ「そういう意思ではない」と伝えると、勝手にそう思い込んだのは相手にもかかわらず「思わせぶりなことをするな」「勘違いさせるな」と非難されてしまうような。

 これは、恋愛や性的なことがまつわると、より一層色濃くなるから不思議だ。相手のことを好きだという思いが、相手の領域を侵食する免罪符となるかのように、グイグイと踏み込んで来る人がいる。本作では咲子に想いを寄せるカズ(濱正悟)が、その典型的なタイプとして描かれているのだが、彼が全否定される存在というわけではない。

 もしかしたら相手次第では、そんなカズの少し強引なところが、むしろ愛の大きさとして受け入れられることもあるだろう。しかし、それはあくまでもそれを相手が望んでいる場合が大前提だ。咲子のように受け入れられないという相手に対して、「しかたないじゃん好きなんだから!」と尾行までして押しかける姿は、愛どころか大きな脅威だ。

 羽がカズに「しかたなくないですね、全然しかたなくないですね。誰かを好きな思いがあれば、異常な行動も許されるなんて思わないでください」ときっぱり伝えた言葉は、アロマンティック・アセクシュアル関係なく、人と人とが付き合っていく中で大前提となる心構えではないだろうか。

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