『妻、小学生になる。』貴恵が生まれ変わった理由とは? “謎の男”水川かたまりも登場
「平和ボケの鳩」とは、貴恵が家族の悩みを持たずに育った圭介を揶揄したものだ。のほほんと何も背負わずにいられることの幸せを、貴恵は誰よりも知っていた。貴恵が生まれ変わった理由には「白石家も新島家も幸せに暮らせる方法」が大きく関わっているのではないだろうか。
千嘉から「消えてくれないかな」などと暴言を吐かれてきた万理華に、かつての母と自分自身を重ねずにはいられなかった貴恵。幸せにしてくれない周囲に怒り、情緒のコントロールが苦手だったという母に、貴恵はよくオムライスを作っていたと弟の友利(神木隆之介)が語っていた。
それは貴恵が人生で得た、母とうまく付き合うための知恵とも言える。万理華となった今も、母である千嘉を攻めるのではなく、その知恵を絞って元気づけようとする健気な姿勢に胸が痛くなる。
家族が幸せに暮らすためにはどうしたらいいのか。それを一番に考えて生きてきた貴恵にとって、自分の死がきっかけでどこにも進めなくなってしまった新島家は見ていられなかったのかもしれない。そして、同じように母娘関係で悩む万理華のことも一緒になって考えていきたい。それが生まれ変わりという現象へと繋がったのではないだろうか。
だとすれば、この2つの家族が幸せに暮らす方法が見つかったとき、貴恵の魂はどうなってしまうのだろう、という不安がよぎる。娘の麻衣(蒔田彩珠)の恋を応援し、一緒にゲームをして、川の字で寝る。一つずつ、失われた時間を取り戻すかのように、紡がれる新島家の思い出。それも、いつか万理華の記憶と引き換えに抜け出てしまうものなのだろうか。
貴恵が満足してしまったらその魂が抜け出てしまうのだとしたら、まだまだ安心してもらっては困る。万理華の心を守り、千嘉とぶつかり、麻衣を励まし、圭介を奮い立たせ、友利を叱咤し……彼らには、まだまだ頼れる貴恵が必要に見えるからだ。
とはいえ、いつまでも貴恵に頼っていることが本当に家族が幸せになる方法なのか、というのもまた考えさせられるところだ。人生を進めるというのはある意味で寂しさの連続だ。「このまま時が止まってくれればいいのに」と願うほど幸せなひとときを過ごしたとしても、時間は無情に流れていく。
自分自身は老いていくし、子どもはいずれ巣立っていく。周囲の人間関係も水の流れのごとく絶えず移っていき、その変化に常に対応していく必要がある。だからこそ、迷い続けなければならない。自分らしい答えを出すまで、決してあきらめることなく。
ただ、1人ではなかなか見つけ出すことは難しい。だから、貴恵は白石家と新島家を巻き込み、生まれ変わったのかもしれない。それぞれ中で抱え込んできた思いを無理なく解き放ち、気持ちよく迷い生きていくために。
「家族ぐるみの付き合い」を、貴恵ではなく圭介が提案したところにもまた大きな意味を感じた。圭介自身が貴恵に頼らずに新しい答えを導き出そうとしているように見えるからだ。千嘉との新しい関係に加えて、上司の守屋(森田望智)の想いや、麻衣と蓮司(杉野遥亮)との淡い恋など、同時に多くの変化が起こる。それもまた人生。悔いのないように、圭介たちには思いきり迷ってほしいものだ。
■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS