堤幸彦の最高傑作? 映画監督50作目『truth』を観て感じる、映画に必要なこと

『truth』で感じる、映画に必要なこと

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、堤幸彦作品の中では『ぼくらの勇気 未満都市』(日本テレビ系)世代の石井が『truth 〜姦しき弔いの果て〜』をプッシュします。

『truth 〜姦しき弔いの果て〜』

 あけましておめでとうございます。今年も1年間、リアルサウンド映画部の編集部員の素顔が垣間見えるこのコーナー、継続できるようにがんばります。2022年1本目ということもあり、みんな大好き『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がふさわしいかもしれないのですが、オススメしなくても観に行く作品であり、ネタバレ厳禁な作品でもあるので、もしかすると映画ファンのチェックから外れているかもしれない『truth 〜姦しき弔いの果て〜』をピックアップしました。

 監督を務めるのは堤幸彦。本作が記念すべき映画監督作50作目となります。『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)、『ケイゾク』(TBS系)、『TRICK』シリーズ(テレビ朝日系)など、テレビドラマ史に残る数々の作品を手掛けてきた堤監督。20代後半〜30代半ばぐらいの世代の方は、堤幸彦ドラマと一緒に青春を過ごしていったと言っても過言ではないかと思います。しかし、“映画監督”としての堤幸彦監督作品は……という方も映画ファンの中にはいるかもしれません。何を隠そう、私自身がそうでありました。ただ、そういった先入観で作品を観ないことがいかに勿体ないことであるかを、この50作目『truth』を観て、思い知らされました。

 『truth』の出演者は3名+忖度出演の佐藤二朗(写真と声のみ)だけ。舞台も一室のみの最小範囲で、上映時間も71分という非常にコンパクトな作りとなっています。製作期間も企画から完成まで約4カ月の超スピード。歴戦練磨の堤組スタッフが揃っているとはいえ、テレビ局出資や、超有名原作の映画の予算は一切つかない、一連の作品群とは正反対の紛れもない自主映画です。でも、これが面白かった。

 全員が主演兼プロデューサーを務めている広山詞葉、福宮あやの、河野知美の3名がとにかく素晴らしいです。日本の商業映画ではなかなかないプロデューサー兼任ということもあり、企画を立ち上げた経緯、本作を届けるための海外への売り込み、宣伝活動と、映画の外側での動きはもちろん讃えられるべきなのですが、役者として作品を引っ張る姿がとにかくすごいです。

 3人が演じるのは、突然亡くなった恋人(佐藤二朗)を思い続ける、元ヤンでシングルマザー のマロン(福宮あやの)、セレブな医師・さな(河野知美)、美貌を武器に受付の仕事をしている野心家の真弓(広山詞葉)。自分が彼の大切な恋人だと思って部屋に行ったら、男は3人全員と付き合っていたという事実が明らかになり、誰がもっとも愛されていたのかマウント合戦がはじまる……というのが本作のおおまかあらすじです。

 正直、3名のほかの出演作での活躍をほとんど知らなかったこともあり、荒唐無稽とも言える会話劇のはずなのにドキュメンタリーのような生々しさが3人にはありました。フィクションではありますが、ここまで人間の建前と本音を目の当たりにできる機会はなかなかないです。

 3名それぞれ分かりやすい設定があるキャラなだけに、ともすればもっと“記号”としての人間になってもおかしくはなかったと思います。劇中、全員が感情を0から100へ、100から0へと行ったり来たりするので、もっと破綻してもおかしくないはずなのに、絶妙なバランスが保たれていました。3名の演技力と作品への向き合い方、そして堤監督の演出力が成り立たせていたのだと思います。佐藤二朗さんの使い方も完璧でした。

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