小学校ドラマは時代を映す鏡? 『熱中時代』から『二月の勝者』までを辿る
1996年に放送された『勝利の女神』(フジテレビ系)は、中学受験をする小学生のための学習塾を舞台にしたドラマ。学歴第一主義で受験に邁進するエリート講師・片桐(陣内孝則)と、子どもたちの心や個性を大切にしようとする学生バイト講師・吉本(中居正広)の対立を軸にストーリーが展開する。中受が完全に肯定されている『二月の勝者』と比較してみると興味深そうだ(DVD未発売で観る手段がない)。なお、クラスの中に小栗旬がいる。
2001年の『ガッコの先生』(TBS系)は東芝日曜劇場の枠で放送された小学校ドラマ。堂本剛が演じるのは、関西弁丸出しの理想に燃える熱血教師・桜木仙太郎。「夢は日本一の富士山のようなクラスを作ること」「教育いうのは、ハートとハートとぶつかり合いが一番大事やと思います」と子どもたちの前で堂々と言ってのける教師像は、『熱中時代』の2000年代版とも言える。父性的な年長者(いかりや長介)のもと、同僚の教師(竹内結子)と下宿するという設定も『熱中時代』と同じだった。
お金第一主義の子どもが多く、なかにはサラ金並の金利で金貸しを営んでいる子どもまでいる始末。性についても掘り下げられており、デリカシーのない男子たちに女子たちが怒って「女子の権利を守る会」を立ち上げてデモ行進をしたり、電車の中で繰り返される痴漢行為から主人公が教え子を守ったりするエピソードもあった。クラスの中に加藤諒や声優の花澤香菜の姿も。
社会現象を巻き起こした異色の小学校ドラマが『女王の教室』(2005年/日本テレビ系)だ。女王のようにクラスを支配する主人公・阿久津真矢(天海祐希)と、神田和美(志田未来)をはじめとする子どもたちの戦いを描く。
「愚か者や怠け者は差別と不公平に苦しみ、賢い者や努力した者は色々な特権を得て、豊かな人生を送ることができる。それが社会というものです」「いい加減目覚めなさい。日本という国は、そういう特権階級の人たちが楽しく幸せに暮らせるように、あなたたち凡人が安い給料で働き、高い税金を払うことで成り立っているんです」などに代表される阿久津の言葉と思想は、従来の道徳的な熱血教師からはかけ離れたもので、視聴者に大きな衝撃を与えた。「悔しかったら、自分の人生くらい、自分で責任持ちなさい!」という自己責任論を思わせる言葉もある。
とはいえ、2005年はホリエモンブームの真っ最中であり、阿久津の言うきれいごとではない正論が受ける下地はできていたと考えられる。また、阿久津の思想はその後の『ドラゴン桜』の桜木建二(阿部寛)や『二月の勝者』の黒木の言葉と通じるものがある。『うちの子にかぎって…』のスペシャル2を執筆した遊川和彦が本作を書いているのが興味深い。
子どもたちを取り巻く諸問題をクローズアップしたのが『ハガネの女』(2010年)である。学級崩壊で3人の教師を再起不能にしたクラスに主人公・芳賀稲子(吉瀬美智子)が体当たりで挑む。
すでに格差社会は当たり前のものとなり、いじめ、DV、貧困、心の病、離婚、モラハラ、モンスターペアレンツなどの深刻な問題がこれでもかとラインナップされた。子どもが殺したウサギの死骸が主人公の机に入れられていたり、夫(村上淳)からモラハラを受けていた妻(高橋由美子)が逃げている最中に車に撥ねられて死亡するなどのショッキングな描写が相次いだのは、夜11時15分の枠で子どもが観ないことを想定しているからこそできたのだろう。
『スクール!!』(2011年/フジテレビ系)は民間出身の小学校校長が奮闘するストーリーだが、民間にいたことよりも主人公・成瀬誠一郎(江口洋介)のポジティブで熱血な性格のほうが前面に打ち出されていた。「俺のゲンコツはいわば親父のゲンコツだ」と言ってしまう時代錯誤的な人物だが、体当たりで学級崩壊やDV、貧困と格差などの子どもたちを取り巻く問題を解決していく。成瀬もかつての恩師(岸部一徳)のもとに下宿する『熱中時代』パターンを踏襲していた。
成瀬と対象的な存在として、「嘘の希望より厳しい現実のほうがマシ」と公言し、超学力格差社会を勝ち抜くために徹底した詰め込み教育を推し進める教師・桐原(西島秀俊)が登場するが、彼も『女王の教室』の阿久津や『二月の勝者』の黒木などと通じる存在である。
この後、どのような教師像が生み出され、どのような小学校ドラマが生まれていくか、楽しみでならない。どんな作品だれ、社会を反映したものになるのは間違いないだろう。学園ドラマ、小学校ドラマは時代を映す鏡なのだ。
■配信情報
『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』
Huluにて配信中
出演:柳楽優弥、井上真央、加藤シゲアキ、池田鉄洋、瀧内公美、今井隆文、加治将樹、住田萌乃、岸部一徳ほか
原作:『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』高瀬志帆(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
脚本:成瀬活雄
音楽:小西康陽
主題歌: DISH//「沈丁花」(ソニー・ミュージックレコーズ)
テーマソング:NEWS 「未来へ」(Johnny’s Entertainment Record)
演出:鈴木勇馬ほか
プロデューサー:次屋尚、大塚英治(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
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