『キングスマン』前日譚では英雄に “葛藤”を体現するレイフ・ファインズの足跡をたどる
『ハリー・ポッター』や『007』などで、巨大フランチャイズに進出
その後も数々の映画で主演、もしくは主要キャストを務めてきたレイフ・ファインズは、2005年、ついに『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で巨大フランチャイズに進出する。これまで文芸映画や芸術性の高い作品に多く出演してきた彼にとって、これは大きな変化だっただろう。ご存知のとおり、同シリーズで彼が演じたのは、魔法界史上最悪の闇の魔法使い、ヴォルデモート卿だ。自分が手に掛けようとした人物のなかで唯一生き残ったハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)に強い憎しみを抱き、再び魔法界を闇で覆うことを画策するヴォルデモートは、たびたびハリーに罠を仕掛け、その命を狙う。ヴォルデモートは“純粋な悪”だ。ファインズはそんなキャラクターを、いかにも恐ろしく邪悪な存在として演じている。これは、彼がこれまで演じてきた『嵐が丘』のヒースクリフや、『シンドラーのリスト』のゲートから、葛藤や人間らしさを取り除いたものなのだろう。ファインズが演じたことで、ヴォルデモートは間違いなく映画史に残る強烈な悪役になった。
またファインズは2012年から、イギリスを代表する人気シリーズ『007』に参加することになる。『007 スカイフォール』で彼が演じたギャレス・マロリーは、政府のエージェントとしてボンド(ダニエル・クレイグ)らを厳しく監視しながらも的確なアドバイスを与え、ラストではそれまでジュディ・デンチが演じてきたMの後を継いだ。つづく『007 スペクター』(2015年)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)でもMを演じ、やはりボンドに振り回されることには違いないのだが、頭の切れる上司として、ジュディ・デンチとはまた違った味のあるキャラクターに仕上がっている。この役でファインズは、現代の英国紳士というイメージを獲得したのではないだろうか。
『キングスマン:ファースト・エージェント』で戦う英国紳士に
『キングスマン:ファースト・エージェント』では、20世紀初頭を舞台にスパイ組織キングスマンの誕生が描かれる。レイフ・ファインズが演じるのは、そのリーダー、オックスフォード公だ。平和主義の高貴な貴族である彼は、第一次世界大戦を止めるべく、息子のコンラッド(ハリス・ディキンソン)や仲間たちとともに、謎の凶団に立ち向かうことになる。このマシュー・ヴォーンによる人気スパイアクションシリーズ最新作で、ファインズは自ら激しいスタントもこなした。「『007』シリーズでも、少しはアクションシーンをやらせてもらいたいと常々思っていたが、今後もそれはないだろう」とプロモーション時のインタビューで語る彼は、本作のために数ヶ月のトレーニングに励んだという。彼によれば、「トレーニングは楽しかったが、本当らしく見せるためにとても厳しいものだった」そうだ。また彼は、スタッフが危険と判断したスタント以外は、基本的に自分でやりたいとも、『キングスマン:ファースト・エージェント』のオフィシャルインタビューで明かしている。本作でのお気に入りは、ナイフを使って凍った崖を登るシーンだと語るファインズ。このシーンもまた、彼が自らスタントをこなしているという。ド派手かつスタイリッシュなアクションが期待される本作で、彼のようなベテラン演技派俳優が披露するアクションも見どころの1つだ。
葛藤を抱えた悪役を中心に、複雑な役柄を演じてきたレイフ・ファインズ。“葛藤”は、彼がこれまで演じてきた数々の名キャラクターのキーワードではないだろうか。そんな演技派の彼が『キングスマン:ファースト・エージェント』では、華麗なアクションを見せてくれる。もちろん本作で演じるオックスフォード公も、アクションだけではない深みのある人物だ。ファインズは自身の役柄について、次のように語っている。「私が演じる役は最初は平和主義だが、あるとき自分で剣を取らなければいけないことに気がつくんだ。男は時に、やらなければならないことを、やらなければならないからね」。ここにもまた葛藤があり、オックスフォード公は“戦う英国紳士”として覚醒していくのだろう。
■公開情報
『キングスマン:ファースト・エージェント』
12月24日(金)全国公開
監督:マシュー・ヴォーン
出演:レイフ・ファインズ、ハリス・ディキンソン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movie/kingsman_fa.html