『カムカム』岡田結実が放つ“小さな棘” 安子とるいの対比が不吉な予感を漂わせる
「May I help you?」。安子(上白石萌音)は、英語が通じず困っていた米軍将校のロバート・ローズウッド(村雨辰剛)に勇気を出して声をかける。彼はただ花を買おうとしていただけだったが、花屋のおばさんは野の花を無断で売っていたことを咎められたと勘違いしていた。行き違った2人の本意を通訳する形で伝える安子。無事に花を買い満足げに去るロバートの背中を眺めながら、安子は自分の英語が通じたことに高揚していた。
占領期、ピーク時には40万人以上の米兵が駐留していたという日本。彼らによって急速にアメリカの生活様式や文化がもたらされたのだが……。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第28話では、戦勝国・アメリカの華やかな文化に憧れつつも複雑な感情を抱く人々の姿が描かれた。
るい(中野翠咲)を雪衣(岡田結実)に預け、1人でおはぎを売り始めた安子は商店街で懐かしい声を聴く。声の主は稔(松村北斗)がよく通っていた喫茶店「Dippermouth Blues」の店主・定一(世良公則)。彼は進駐クラブで演奏するミュージシャンを斡旋しており、喫茶店にはレコードを聴きに来た人たちで賑わっていた。一見何も変わりなく元気そうな姿に安堵する安子だったが、昼間から酒を仰ぐ定一がふと「飲まずにやっとられるか」と本音を零す。一人息子の健一(前野朋哉)も戦争に行ったきり音沙汰がないのだ。
「何の因果じゃろうのう。稔を殺した、健一を殺したかもしれん国の音楽をわしゃあ今日もかけとる」
敵性音楽として禁止された時もジャズを愛し続けた定一ですら、日本が負けたアメリカの文化を受け入れることに抵抗感を持っていた。その複雑な思いを、この頃から全国に普及し始めたコーラの“にがくてあまい”味が物語っているようだ。
しかし、それは稔が生前愛した文化でもある。どこの国とも自由に行き来できて、どこの国の音楽も自由に聴けて演奏できる……。そんな願いをるいの名前に込めた稔はきっと、ふたたび人々が憎み合うことを望んではいない。