『カムカム』は絶品の朝ドラに 藤本有紀脚本が紡ぐ“私たちの◯◯かもしれない”物語

『カムカム』は“絶品”の朝ドラ

 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)は、まさに「絶品」の朝ドラである。

 本作の公式サイトには「これは、すべての『私』の物語。」という言葉が添えられている。岡山の小さな和菓子屋に生まれ、「お菓子を食べている人の顔を見るのが何より好き」な「ごく普通の女の子」安子(上白石萌音)が時代に翻弄される姿を目の当たりにするにつけ、これから始まる3世代の女性たちの人生の物語は、「もしかしたら私の祖母の物語かもしれない、母の物語かもしれない、そして私自身の物語になるのかもしれない」、そんなことを思いながら観ている視聴者は多いのではないだろうか。本作は、そんな日本中の、無数の人生の物語に思いを馳せることができる、幸福なドラマだ。

 異例の3人ヒロインが紡ぐ、親子3代合わせて100年の物語を描くために、まるでジェットコースターのような展開の速さで物語が動いていくが、そのめまぐるしいスピードに振り落とされるなどということはない。『ちりとてちん』(NHK総合)に次いで2度目の朝ドラである藤本有紀による脚本は、しっかりと伝統的な朝ドラの系譜を踏襲した上で、さらなる飛躍を見せる。

 例えば成長したヒロインと「自転車」のエピソードは、朝ドラの伝統とも言えるが、その自転車は安子にとって夫・稔(松村北斗)との忘れがたい恋の記憶となるとともに、杵太郎(大和田伸也)と金太(甲本雅裕)の思いがこもった「美味しい菓子を作るために唱える言葉」と同様、もうここにはいない人たちからの教えとなって、安子が娘と共に生き抜くための武器として、彼女の傍に居続ける。

 また、人々のありふれた日常が戦争によってどのように歪められていったかが、戦前・戦中・戦後の路地の定点観測、もしくは冒頭何話かを示すロゴマークとそれが切り取る一コマの変遷によって、こうも端的に迫力のある形で示されるのは驚くべきことだった。そして、今後「ラジオ」がどういった位置づけで人々の生活に在り続けるのか、その変遷を辿ることにおいても、同じことが言えるだろう。

 さて、初代ヒロイン、上白石萌音演じる安子である。あずきの甘い匂いで目を覚まし、金太たちに「おはよう」と挨拶する登場の場面の、起きたばかりの目の愛くるしさ、杵太郎に向かって「おじいちゃん」と語りかける時の声色の柔らかさ、母としてるいに語り掛ける「よう寝たなあ」の声の、歌うような軽やかさ。声や表情からこぼれ出る彼女自身の優しさと朗らかさゆえだろうか、誰にとっても理想の娘・孫・恋人・妻・母になれる彼女の底知れない魅力と言ったらない。そんな彼女がどうしてこんなにも不幸な目にばかりあい、追い詰められなければならないのかと、やきもきしながら見ている。

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