【ネタバレあり】『最愛』最終回で響いた「真相は、愛で消える」 犯人が至った愛の形

【ネタバレあり】『最愛』犯人が至った愛の形

 対して、梨央も加瀬のしてきたこと、そして突然いなくなった理由について、薄々気がついている。その上で、新たなブラックボックスを抱えて生きていくことを選んだ。それが、結果的に加瀬を守ることにもつながるとわかっているからではないか。もちろん、大きな秘密を胸に生きていくことは簡単なことではない。

 後藤(及川光博)が、梨央の母・梓(薬師丸ひろ子)と面会し、寄付金詐欺に手を染めたのは自分であると告白するつもりだと伝えたときに、「秘密を抱えて生きる人生を受け入れるのは難しいです」と言っていたのを思い出す。その重みに耐えながら一生を過ごすというのは、並大抵の覚悟ではできない。

 後藤の場合は、その罪を認めることで、梓の背負おうとしていたものを一緒に持つことができるという“希望”があった。だが、加瀬、大輝、そして梨央がこれから抱えていく秘密には、明かすだけの希望が今のところ見つからない。

 「探さないで」「そのままにしておいて」。そう梓が、あの赤いペンの行方について語った言葉は、加瀬のことを言っていたように思う。梓はきっと不正に手を染めた後藤を黙認していたように、加瀬のこともわかっていたのだろう。それでも口をつぐみ続けてきた愛情にまた苦しくなるし、それだけ真田ファミリーは紛れもなく“家族”だったのだと痛感する。

 本来は、きっと誰もが一点の曇りもなく生きていきたいはずだ。でも、そうはいかない事態が訪れるのが、人生だ。そんな割り切れない世界を白黒つけようとうするのが、法律だ。ときには愛ゆえに、多くの人から「間違っている」という道を選ばずにはいられない人もいる。それを何も知らない第三者が、どこまで「罪だ」と咎めることができるだろうか。

 愛すればこそ、人は自分自身の人生を放り投げてでも守ろうとする。ときには、最初から愛など知らないほうがよかったのではないかと思うほど、苦しい局面を迎えてしまうことも。そんな理不尽な世界に救いがあるとすれば、最後に加瀬が残した「人生最良のこの十六年間に感謝します」という言葉ではないだろうか。

〈君に夢中 人生狂わすタイプ ここが地獄でも天国 バカになるほど 君に夢中〉

 加瀬の決意を思うと、主題歌「君に夢中」の一節が頭の中を流れる。地獄のような日々さえも天国と思える。苦悩続きの日々が人生最良といえる。そんな人生を狂わされるほど夢中になれる人と出会えること、そしてその人を想って生きることそのものが、人が生きる醍醐味なのだと気づかせてくれるドラマだった。

 どこか合理主義で、何事も損得勘定で生きがちな現代に、これほど泥臭く愛を語る作品に出会えたことに感謝したい。ラストまで先が読めない構成に、科学的なアプローチを取り入れた誠実な事件の究明、そしてキャラクター1人ひとりの背景に思い入れを感じさせる作り込み。このドラマそのものがエンタメを作り出すスタッフやキャストたちの“最愛”で作り上げられているのを感じた。

 そしてどんなラストでも受け入れると、心してラストまで見届けた視聴者の愛もまた、この作品を大いに盛り上げた。愛を貫くのはこんなにも苦しくて、そして幸せなことである。ここは、加瀬が新しい目標に向かっているのだと信じて、私たちもまた新たな愛を探す旅に出る覚悟を決めようではないか。

■配信情報
金曜ドラマ『最愛』
TVer、Paraviにて配信中
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル「君に夢中」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる