『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』が描く“ご近所コミュニティ” 現代の理想郷はなぜ成り立つ?

『のほほん』に学ぶ「自分らしい生き方」

 2020年末に放送された『ゴッドタン 芸人マジ歌選手権SP』(テレビ東京系)で、阿佐ヶ谷姉妹が歌った「頑張れ北口商店街」という曲。そのあまりの「愛」に心を鷲掴みにされてしまった。コロナ禍のなか、厳しい生き残り戦を強いられる商店街への、江里子さんと美穂さんによる腹の底からの激励、そして、スライドショーに登場する商店街の人々の「阿佐ヶ谷姉妹のためならどんなことでも協力する」という心意気に、ちょっと泣いた。

 『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK総合)は、そんな、阿佐ヶ谷を愛し、阿佐ヶ谷に愛された芸人・阿佐ヶ谷姉妹の魅力、そして双方の「愛」の共鳴がビンビンに感じられるドラマだ。江里子さんと美穂さんが綴った同名エッセイを原作としたドラマなので、エピソードは実話ベース。主役のエリコ(木村多江)、ミホ(安藤玉恵)はもちろんのこと、ご近所さんや商店街の人々も、ほぼ実在の人物をモデルにしている。

 その「愛のヴァイブス」が、ドラマのキャスト、スタッフにも波及していることがよくわかる。主演の木村多江と安藤玉恵の演技は「ものまね」などという次元の話ではなく、「魂を受け取った」とでも言おうか。まごうことなき“阿佐ヶ谷姉妹”でありながら、新たな“阿佐ヶ谷姉妹”像を見事に打ち出している。モデルや主題に対する深い愛情とリスペクトがあればこそだろう。

 映画『子供はわかってあげない』や『きょうの猫村さん』(テレビ東京)を手がけた脚本家・ふじきみつ彦、『トットてれび』(NHK総合)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)の演出に携わった津田温子ら、気鋭のスタッフ陣による「スピリットの抽出」の妙も際立つ。番組公式サイトのスタッフブログによれば、「原作を下敷きに脚本を書き、演出をほどこす」というような単純作業ではなく、阿佐ヶ谷姉妹本人やご近所さん、商店街の人々に実際に取材を重ねて作劇を練り上げたという。

 たとえば第3話、ネタ作りにテンパって床に寝転がるエリコをよそに、ミホが白湯を飲みながらノートPCでカッコウの托卵の動画を見ているシーン。原作の「姉よ、そんなに私が好きなのか」の節では、美穂さんが綴る「姉が言う私の好きなところ」の一例として「(前略)カッコウの托卵、羊の毛狩りの動画について熱弁を振るうみほなどがいいそうです」と、さらりと書かれているだけなのだ。おそらくこのくだりに興味を持ったスタッフが、阿佐ヶ谷姉妹にヒアリングして膨らませたのだろう。2人の台詞はこのようになっている。

ミホ「カッコウがホオジロの巣に卵を産んで、ホオジロに子育て全部やらせちゃうんだけど、その時に巣にもともとあったホオジロの卵を全部地面に落として殺しちゃうの。残酷よねえ〜」

エリコ「明日オーディションなのになんでそんなの見てるの……」

ミホ「ええ? いいじゃない、面白いんだから」

 この絶妙にシュールで、ズレてるような、それでいて息ピッタリなやりとりに、「グフ笑い」が止まらない。

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